小森は2年前に転職してきた職人。仕事が早くて正確なので、取引先からも重宝されている。社長の代わりとして案件をまとめ、現場管理も行い、最初の頃は社長も「いい人が来てくれた」と喜んでいた。ところが数ヵ月経った頃から、「給料を前借りさせてほしい」「給料をもっと上げてくれ」などと要求するように。社長が本人に話をよくよく聞いてみると、「賭けごとや飲み代などの借金を抱え、生活が大変だから」とのことだった。

 社長は、苦々しく思いながらも、仕事ができる小森を手放すと現場が回らないと考え、要求を少しずつ呑んできた。だが、ここのところ遅刻や勝手な直行直帰などが目立つようになり、どうすればいいのか悩んでいた矢先の出来事だった。

他の従業員から
小森のよからぬ噂が…

 社長が何度も小森の携帯に連絡を入れている様子を見ていた事務パートの徳田が、「ちょっと小森さんのことで……」と話しかけてきた。

「小森さん、もしかしたら会社の資材を横流ししているかもしれません。念のため、現場の規模と発注量を照らし合わせたところ、やはり発注量がかなり多いんです。しかも、それだけ発注したなら、倉庫に余っているはずなのに、在庫が全くないんです」

 と続けて、現場を取り仕切っている小森が急激に資材の発注量を増やす行動に疑問を感じ、徳田が小森とトラブルになった経緯を社長に話した。

「ここ最近、明らかに発注量がかなり増えていたため、心配していました。そこで社長に確認しようとしたところ、『現場のことなんか社長も分からない。急がないと間に合わないだろ!』と小森に凄まれてしまい、それ以来何も言えなくなってしまったんです」

 小森に関する怪しい話はそれだけではなかった。他の従業員からの噂もあったのだ。

「ここのところ、小森さんは急に羽振りがよくなったようで、他の社員の間でなんか変だって噂話をしていたんです」

 悪い話が次々と出てくる事態に、社長は小森が信じられなくなってきていた。

(いろいろと問題ある人物だとは思ったが、まさかそんなことまで……)。社長は「とにかく、本人から電話が来たらすぐに教えてくれ」と徳田に言って、現場へ急いだ。

小森のトンデモ行動に対し
決定的な証拠がない

 翌日、小森がマスクをして会社に現れた。

「風邪で熱があり、家で寝込んでいました。昨日は起きたら夕方で、連絡もできずにすみませんでした」