米国で導入が予定される新たな金融規制をめぐり、日本の金融市場が揺れている。その背景からは、米国中心主義的な傲慢さが透けて見える。

 新金融規制はボルカールールと呼ばれ、米銀の自己資金による市場取引を禁止している。米投資銀行などの行き過ぎたリスクテークに歯止めをかけ、金融危機の再発を抑止する狙いがある。

米国の新金融規制でとばっちり<br />メガバンクにドル調達リスクボルカールールは7月に施行される予定だが、米国には各国の事情を踏まえた修正が求められる
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 ただ、すべての自己勘定取引を禁止すると、金融市場は麻痺してしまう。そのため、リスクヘッジ目的をはじめ、値付けや引き受け関連の取引は例外として認められる。米国債の取引も同様に例外扱いとなっている。

 ところが日本など外国の国債については、なぜか例外対象に含まれていないのだ。

 金融庁と日本銀行は、「日本国債の取引コストを増大させ、米銀の日本法人の撤退につながる」などの懸念を表明。日本国債の流動性や価格に悪影響が出るとして、規制の対象から日本国債を除外するよう求めている。カナダや英国、韓国など各国からも不満が噴出しており、米側はルールの修正に応じると見られる。

 しかし、問題はこれだけにとどまらない。

 メガバンク幹部は「邦銀にとってさらに悩ましいのは為替スワップの問題だ」と打ち明ける。

 ボルカールールが厄介なのは、国境を越えて域外適用される点だ。たとえば、邦銀などが米銀と取引する場合、その邦銀も規制対象となってしまうのである。

 そのため、国債問題の陰に隠れてあまり話題にはなっていないが、ドル資金の調達手段としてメガバンクが活用してきた、米銀との短期の為替スワップまでもができなくなってしまうのだ。

 海外展開を加速するメガバンクは目下、欧州債務危機の影響で資産の圧縮を迫られている欧州銀が売り出している資産を物色中で、いざ大型買収を仕掛けるとなれば、巨額のドル資金が必要となる。

 もちろん手持ちの外貨も潤沢にあるが、債務危機の泥沼化でいつ多額のドルが必要になるか不透明な状態にあるため、手元資金とは別に安定したドルの調達ルートを確保しておきたいというのが邦銀の本音だ。

 メガバンクのマーケット担当者は「ドルを大量に保有しているのはやはり米銀。その米銀との為替スワップが禁止されると、残るは欧州銀だが、債務危機による信用リスクが心配で大きくは取引できないため、ドル調達に支障が出かねない」と明かす。

 米国の独善主義は今に始まったことではない。かつて国際的な金融規制をめぐって、米国が自国に都合のよい自己資本比率規制を導入し、邦銀は多大な足かせをはめられた苦い経験がある。

 同じ轍を踏まぬよう、各国と連携し、目に余る米国中心主義に断固、異議を申し立てる必要がある。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 山口圭介)

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