ある投資家向けのイベントで、登壇者の1人が「皆さん、将来の為替レートがどうなるのかが重要です。よく考えてください」と力説した。そう言われると、将来の生活にとって、為替レートが重要な気はする。ただし、一般的に持たれている印象よりも日本の貿易額は大きくない。昨年は、輸入で約60兆円、輸出で約67兆円と、共にGDPの15%に満たない。

 一般に、景気を論じるときには円高の影響が心配される。資産運用の文脈では、将来のインフレとともに円安になる状況の怖さが強調される。為替は厄介なリスク要因だ。

 個人の資産運用では、為替レートは以下のように登場する。まず、日本が高齢化し経済が低成長化し、国力が落ちていると強調される。そして、こんな国の通貨が高いのはおかしいと問いかけられる。

 さらに、日本の財政赤字が巨額であることが指摘され、将来、財政が破綻した場合のハイパーインフレやこれに伴い円安が起こって、日本人の購買力は大きく損なわれるだろうと話は続く。

 そして、グローバル化する経済のなかで、多くの日本人の稼ぎがすべて日本円建てであることが強調され、「あなたの資産が日本円という単一の通貨に集中投資されていることのリスクをどうお考えですか?」などと脅しのような質問が浴びせられる。「可能性」を消し去ることは難しいので、精神的に追い込まれることになる。

 運用についてかなり正確に理解している人であっても、将来のリスクを持ち出されると不安になることが少なくない。

 さて、カンのいい読者は気づかれただろうが、金融業界の側では、なにはともあれ、顧客に外貨建て資産での運用に興味を持ってほしいのだ。要は、外貨売買の手数料や、外貨建て資産で運用する商品の手数料を稼ぎたい。一般に、外国資産に投資する商品の手数料は、国内資産だけに投資する商品の手数料よりも高いことが多い。