昨年から新NISAがスタートした。だが、投資には「不確定要素」がつきものだ。どうすれば不運な目に遭わずに投資で成功できるのか?
今、全国の書店で話題となっているのが、「読むと人生が変わる」「シンプルすぎ最強」「『金持ち父さん 貧乏父さん』以来の衝撃の書!」と絶賛されている全世界40万部のベストセラー『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』(ニック・マジューリ著)だ。前回に引き続き『ストーリーとしての競争戦略』の楠木建氏(一橋大学特任教授)の特別投稿第2弾をお届けする。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)

【神でさえ勝てない不労所得】100年のデータが突きつけた「お金が貯まる人」のシンプルすぎる結論とは?Photo: Adobe Stock

「神でさえドルコスト平均法には勝てない」って?!

長期にわたる観測データの裏づけをもって議論を進め主張を導く――本書に通底する著者のスタイルだ。

「安値になるのをじっと待っていたい」という投資家は少なくない。しかし、この投資スタンスはほとんどの場合ペイしない。このことを著者は次のようなファクトに基づくシミュレーションで明らかにしている。

1920年から1980年のいずれかの時点から米国株に40年投資したとする。
次の2つの投資法のうちどちらのパフォーマンスが優れているだろうか。

(1)ドルコスト平均法:毎月100ドルを40年間投資する
(2)バイ・ザ・ディップ(押し目買い):毎月100ドル貯金して相場の下落時のみに買う

本書では、バイ・ザ・ディップをさらに有利なものにするルールが設定されている。

プレイヤーは2つの史上最高値の間の底値がいつかを正確に把握できる。つまり確実に底値で株を買えるということだ。

普通に考えると(2)が負けるはずがないように思える。常に2つの最高値の間の底値で株を買えるからだ。

しかし、著者はあらゆるデータを分析した結果、40年という期間の70%以上で(2)のパフォーマンスは(1)を下回ることを明らかにしている。

要するに、「神でさえドルコスト平均法には勝てない」ということだ。深刻な暴落はめったに起こらないからだ。

市場の底値を正確に把握できるというのは、もちろん現実的な想定ではない。底値と2か月ずれた時点で投資するという条件でシミュレーションすると、実に97%の確率でバイ・ザ・ディップはドルコスト平均法に勝てないことがわかった。

これでもまだ甘い想定で、現実的には底値を2か月以内の誤差で見極められる人はそれほど多くないだろう。つまり、「底値を待って現金を貯めるのは意味がない」というのが本書の結論だ。

いつ「投資」を始めるべきか?

いつ投資を始めるのか。
この問いに対する著者の答えは「できるだけ早く」だ。

物事を始めるのに最高の日は昨日。次にいいのが今日」――最適な投資事業を待つのではなく、今できる投資を思い切ってすべき。このことを著者はあらゆる資産クラスを対象としたマニアックなまでの分析で明らかにしている。

では、「即一括投資」(投資資金すべてを一度に投資する)と「分割投資」(時間をかけて少しずつ投資する)を比較すると、どちらのパフォーマンスが優れているのか。

投資資金を1万2000ドル、投資期間を1年間とする。
即一括投資では初月に1万2000ドル全額を投資する。一方、分割投資では毎月1000ドルずつ投資する。

1997年から2020年にわたってS&P500に投資したとすると、ほとんどの場合、分割投資のほうが一括投資よりパフォーマンスが低い。

分割投資は即一括投資を平均で1年あたり4%下回っている。
1年あたり4%はそれほど大きな違いではないが、長期的に見ると、はるかに大きな差になる。
この20年間で分割投資が即一括投資を下回る割合は76%にもなる。

シンプルな事実に注目せよ

このような即一括投資有利の傾向は、S&P500や米国株に限らない。

任意の12か月単位で投資をした場合、米国債インデックスでも、金(ゴールド)でも、先進国株でも、新興国株でも、ほとんどの資産クラスで分割投資は即一括投資を下回っている。

その背後にあるのは、「ほとんどの市場は、ほとんどの期間、上昇している」といういたってシンプルな事実だ。

投資の決断が遅れれば遅れるほど、得られるリターンは少なくなる。投資は早いほうがいい。安値を待つのは意味がない。以上を総合すると「できるだけ早く、頻繁に投資すべき」となる。

シンプルな結論に至るプロセスには、広範なファクトがある。

100年以上に及ぶ信頼性の高いデータ分析を重ねながら、シンプルな結論を導出する。
「ジャスト・キープ・バイイング」というメッセージに迫力がある所以
だ。

(本稿は、『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』に関する書き下ろし記事です。)

【執筆者】楠木建(くすのき・けん)
経営学者。一橋大学特任教授(PDS寄付講座・競争戦略およびシグマクシス寄付講座・仕事論)
専攻は競争戦略。著書として『楠木建の頭の中 戦略と経営についての論考』(2024年、日本経済新聞出版)、『絶対悲観主義』(2022年、講談社)、『逆・タイムマシン経営論』(2020年、日経BP、杉浦泰氏との共著)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010年、東洋経済新報社)などがある。