Photo by Hiroki Kondo/REAL
「カタカナ社名のIT企業ですが、くそまじめで手堅い会社です」。社長の岩本哲夫は言う。
アイルは、システム開発会社。顧客は、アパレル、食品、鋼材、ねじなどの中小メーカーや卸に特化しているのが特徴だ。2011年2月には中小企業のIT化に貢献した実績が認められ、経済産業省による「中小企業IT経営力大賞」の特別賞を受賞している。
販売・財務・在庫管理のパッケージソフトの提供のほか、基幹システムの設計・保守管理、ネットワークの構築、ウェブサイトの制作・相談など、幅広く、業務を請け負う。
得意先は4000社を超え、契約の更新率は97.2%に及ぶ。競合になったときの勝率も85%以上と高い。
案件ごとの売上高は少ないが、長期的な取引となる基幹システムなどを導入する客が増え続け、ストックとして積み上がっていくのが大きな強みだ。「20年かけてようやくここまできた」と岩本は振り返る。
「いっそ独立したら」
背中を押した部下や取引先の声
起業前、岩本は大塚商会に勤め、中小企業向けの販売管理システムのトップセールスを達成するなど、名うての営業マンだった。
中小企業の社長からの相談には親身になって応じ、問題が発生すれば、入力作業などを徹夜で手伝う熱血漢だった。「お客さんから必要とされ、頼られるのがうれしかった」。
だが、管理職になると、取引先との接点も減り、思うような仕事ができなくなった。職場の仲間や部下と親しくなり、「最強の営業チーム」をつくっても、会社都合の転勤の辞令一つで離ればなれになってしまうなど、もどかしさを覚えた。
あるとき、酒場で部下に自らの真情を吐露した。すると「岩本さんについて行きます。いっそ独立してください」と思わぬ言葉が返ってきて、心を揺さぶられた。取引先からも「君はサラリーマンには向かない」と“引導”を渡された。
彼らの言葉に背中を押され、岩本は決意した。12年間在籍した大塚商会を退職し、職場の同僚・部下5人を引き連れて起業した。1991年2月、大阪のワンルームマンションの1室からの始まりだった。
まさにバブル経済が崩壊し始めた時期で、よい時期ではなかった。古巣の大塚商会は強力なライバルとなった。
それでも、岩本には勝算があった。なによりも岩本が大塚商会から引き連れてきた仲間は、いずれも営業や技術で「選りすぐりの人材」だったからだ。