いま、長時間労働がホワイトカラーの心身を蝕んでいる。かつては、キャリアの初期に頑張りさえすれば安定した将来が約束されたが、いまは違う。昇進しても楽できないどころか、競争が激化してさらに長く働くようになる。そんな上司の背中を見ている部下は、当然のごとく必死に働くという悪循環だ。自分でも明らかに問題とわかっている働き方を、なぜやめられないのだろうか。本記事では、筆者らの調査により、長時間労働をやめられない理由を明らかにし、リーダーが取るべき姿勢を示す。


「私はまるで、ロボットのようになっていました」と、ある会計事務所のマネジャーは話してくれた。

 彼女と同僚たちの長時間労働は、常軌を逸していた。「それが普通だと思っていたのです。ほとんど洗脳ですよね。要求されることがどんどん増えても、『大丈夫、問題ない、あとで休めばいいんだから』とひたすら自分に言い聞かせていました。もちろん、休める時など決してこないんですけどね」

 筆者は研究を通じ、よく似た話を数え切れないほど聞いてきた。会計事務所や法律事務所、コンサルティング会社といった専門職の人々の話だ。長期にわたる働きすぎは心身の健康によくないこと、働きすぎが原因で仕事の質が大幅に落ちる可能性があることは、誰もが知っている。働き方を変えたいと思ってはいるのだが、どうすればよいのかわからないのだ。

 長時間労働が非常に多いのは、管理職や専門職である。これは、ごく最近の傾向だ。昔のホワイトカラーは、キャリアの初期に一生懸命働けば、あとで存分に報われた。地位は安定し、順調に昇進もできたのである。

 法律事務所や会計事務所、経営コンサルティング会社、投資銀行といった専門職にとって、懸命に働いた先にあるのは「パートナー」という地位だった。競争は厳しかったが、いったんパートナーになればその地位を失うことはなかった。パートナーは、いつどのように働くか、どのような仕事をするか、自分で決めることができた。もちろん、古参パートナーの中には、呆れるほど長い時間をゴルフコースで費やして、「事業開発」業務を行う人もいた。しかし、会社にはすでに十分貢献していたので、問題視されることはなかった。

 いまは、事情がすっかり変わってしまった。ある大手会計事務所の人事担当ディレクターは、こう語っている。「監査室長は、いつも朝5時半から夜10時までオフィスにいます。週末もそう。マネージング・パートナーも同じです。それが普通なんです。上役がそうやって働いているのを見て、部下も同じようにするわけです」

 専門職の組織リーダーシップに関する新著で、筆者は、ある研究を行った。その結果によれば、働きすぎて燃え尽きてしまう傾向の背景には、職業と組織、そして、自分自身に関する諸要因が複雑に絡み合う。

 その中心にあるのは、不安感だ。ある法律事務所のビジネス・ユニット・リーダーは、こう話してくれた。「私は出社すると、ひたすら懸命に働きます。結構いい仕事をしているとは思うのですが、それを測定するのは難しい。そういう性質の仕事なんです。大成功か、大失敗かのどちらかしかない。誰もが不安を抱えていて、いつも怯えています」