「データ様に聞け」

 携帯電話向けソーシャルゲームの開発・運用会社、グループスには、そんな標語がある。

 ソーシャルゲームにおいて、ユーザーがどのようにゲームを楽しんでいるかというデータは、まさしく利益の源泉といえる。たとえば、全ユーザーのプレー履歴を見て、楽しんでいるヘビーユーザーとやめてしまったユーザーとの傾向を比べる。その結果から、毎日のようにゲームの仕様を変えていくのだ。

 「もう少しポイントを撒いたほうがいい」「こちらのページに誘導するよう動線を変えよう」──。各種統計ツールを用いて出した予測結果を基に、開発陣との定例会議や、メールなどで指示を出すのはデータマイニンググループ。リーディングアナリストを務める井澤正志氏は、東北大学理学部を卒業。文部科学省の官僚を経て携帯ゲーム業界に入ってきた変わり種だ。「競馬新聞なども含め、とにかくデータを見るとわくわくする性分」と井澤氏。理系の行政官として培った「論理的思考」が、過去の実績から近未来を予測する今の仕事に生かされている。

 現在、データを読むアナリストは3人。それで13のコンテンツを見ている。最低でも6~7人の体制にしたいと社長とも話しているが、即戦力となる人材が簡単に採用できるかは未知数だという。

 ビッグデータ経営においては、データをどう集め、どう蓄積するかということもさることながら、集めたデータを分析する能力が問われる。

 データ分析ツールの大手、SASジャパンの高橋昌樹ビジネス開発本部CIグループ部長は、「当社はビッグデータの分析ツールを提供しているが、思うような成果を出すには多少の経験がいる。分析の手法やツールは、『知りたい、理解したい』という思いをいかに効率的に行うかの道具にすぎない。まずやるべきは『読むこと』。仮に10万件データがあっても、まずは10件でも自分でデータを読んで分析の方針を決め、その効率を求めるときに初めてツールが必要になる」と話す。

 蓄積されたデータから仮説を立て、検証するという、ある種の“統計センス”を持つ人材の存在なしには、ビッグデータの活用はままならない。

 これは欧米でも問題になっていて、グーグルのハル・ヴァリアン・チーフエコノミストによれば「今後10年で最もセクシーな仕事は統計家」なのだという。昨今は、その手の技術者は「データサイエンティスト」とも称され、「数少ない有限資源として、世界中で人の奪い合いが起きている」と、野村総合研究所の鈴木良介主任コンサルタントは説明する。