また、ウェルチ氏は「ワークアウト」や「チェンジ・アクセラレーション・プログラム(CAP)」などのワークショップを積極的に展開したことで知られていますが、そこで活躍したのが多くの社内ファシリテーターです。彼らが議論を導くことによって参加者の知恵とやる気を引き出し、それがGEの強さの源泉の1つとなったのです。
日本にも星野リゾートの星野佳路社長のようにソフトなリーダーシップを重視している経営者は数多くおられますし、今後はその重要性がますます高まっていくと思いますね。
複数の専門性を
掛け合わせる役割
──リーダーシップにファシリテーションが重視されるようになった、もう一つの要因とは何ですか?
もう一つは、問題が高度化・複雑化していることです。ビジネスに限らず、特定の専門知識だけで解決できる問題はどんどん少なくなっていて、複数の専門性を掛け合わせないと問題解決が図れなくなっています。
そうした状況で役立つのがファシリテーションです。専門性の高い人たちは往々にして異分野とのコミュニケーションを敬遠しがちですが、そういう人たちをうまく噛み合わせて解決策を導くためにはファシリテーションが欠かせません。
たとえば、シリコンバレーのIDEO(アイデオ)はデザイン・シンキングで多くのイノベーションを起こしていますが、この会社のミーティングには心理学者や昆虫学者、建築家、プロダクトデザイナーなどさまざまな分野の専門家が集まります。そこに「ファシリテーター的な人」がいて、議論を上手に噛み合わせていくのです。
専門家の方々の中には、残念なことに専門外の人との間に壁をつくってしまう人が少なくありませんが、ファシリテーションへの理解が深まるにつれて、もっとオープンマインドで異分野の人たちと議論できるようになるのでないかと思います。子どものような開かれた心で対話をすることが、セレンディピティというか、思いがけない発見につながるということを認識してもらえるのではないかと思うのです。そういう状態を引き出すのはファシリテーターの重要な役割の一つです。
GEで体感した
ファシリテーションの威力
──森さんご自身がファシリテーションの効果を体感するようになったのは、どんなご経験からですか?
私がファシリテーションと初めて出合ったのは、GEの本社サイドの組織にいた1996年のことでした。GEプラスチックスジャパンという合弁事業の立て直しのために、先ほども述べた「チェンジ・アクセラレーション・プログラム(CAP)」を行うことになり、5人ほどのファシリテーター団の1人に選ばれた時です。
このCAPでは、事業立て直しのために組織のあり方を抜本的に見直すことが求められ、製造、マーケティング、技術開発などの部門ごとに幹部10人ほどが集められ、1週間缶詰にして毎日10時間以上議論させるものでした。参加者は、毎日激しい筋トレをした後の筋肉のように脳が疲れきってしまいます。
そうして1週間議論をした後、最終日にスポンサーである社長がやってきてその場でチームの提案を聞き、Yes, Noを告げるのです。もし1週間で決着しなければ延長戦も辞さないという構えですし、社長もその場で決済をしないといけない。真剣勝負です。