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3.11の「喪失」~語られなかった悲劇の教訓 吉田典史

この子たちを見捨てるわけにはいかない、絶対に。
「被災犬」「被災猫」の里親を探し続ける獣医の情念

――獣医師・皆川康雄氏のケース

吉田典史 [ジャーナリスト]
【第4回】 2012年2月28日
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 昨年3月の大震災では、被災地において犬や猫、牛などの動物の保護、さらにその後の飼育がクローズアップされた。震災前から住民らの避難訓練はなされてきたが、動物を含めた上での避難対策は不十分だったという見方がある。

 大震災によって、動物も大きな環境の変化を体験した。今回は、福島第1原発の20キロ圏内で犬や猫など保護し、長きに渡り飼育も続ける獣医師に取材を試みた。彼の目に映った「3月11日の喪失」とは……。


福島第1原発20キロ圏内で
保護された犬や猫は、いま……。

獣医師の皆川康雄さん

 「私たちは、このワンちゃんや猫ちゃんの面倒を最後までみますよ。ここに来るまでに、人が経験しないような悲しみや苦しみを十分に味わってきたから……」

 獣医師の皆川康雄さん(44)は、犬や猫がいるケージを前に話す。20くらいのケージの中に、それぞれ1匹ずついる。取材時(2月21日)には犬が9匹、猫が12匹いた。いずれも昨年、福島県第1原発の20キロ圏内で保護されたものだ。

 室内からベランダを見ると、2匹の犬が鎖でつながれていた。手前の茶色い犬(雑種)を見ると、右の前足がない。バランスを崩しながら、こちらを向き、しっぽを振っている。ガラス越しに「この犬の足は……」と問うと、皆川さんが答えた。

 「保護された時点で、足がなかった。それより前に、たぶん、他の犬に咬みつかれ、失ったのかな……。人を怖がらないから、人間から危害を加えられたとは思いにくい」

 皆川さんがベランダに出ると、その犬はしっぽを大きく振る。奥のほうに犬がもう1匹いた。濃い茶色の雑種だ。こちらを向いて吠える。そして前足を上げる。私が1、2歩前に進み、触ろうとする。皆川さんは、「その犬は咬むかもしれない」と言う。

 「ここのワンちゃんの中には、咬む子がいる。さっきまでかわいらしい表情で寝ていたのに、突然起き上がって咬む。情緒不安定になっている」

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吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年からフリー。主に人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『封印された震災死』(世界文化社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、プレジデント社、小学館などで執筆。


3.11の「喪失」~語られなかった悲劇の教訓 吉田典史

東日本大震災からもう1年が経とうとしている。人々の記憶も薄らぎ始めた。しかし、国の復興対策はなかなか進まず、被災者・遺族の心の傷も癒えない。3.11がもたらした「喪失」は、日本人にどんな教訓を投げかけているのか。日本が真の復興を遂げられる日は来るのか。その問いかけをまだ止めることはできない。いや、止めてはいけない。遺族、医師、消防団員、教師、看護士――。ジャーナリストとして震災の「生き証人」たちを取材し続けた筆者が、様々な立場から語られる悲劇の真相を改めて炙り出す。

「3.11の「喪失」~語られなかった悲劇の教訓 吉田典史」

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