ちょうど1年前、東京電力管内は東日本大震災によって引き起こされた福島第一原子力発電所の事故で電力不足に陥った。計画停電が実施され、都内の都市機能は麻痺し大混乱に陥った。日本の電力システムはどのようにあるべきなのか。1年前の大混乱から何を学ぶべきものとは何なのか。電気事業分科会・規制改革会議などで電力自由化を提唱してきた八田達夫・大阪大学招聘教授/学習院大学客員研究員に話を聞いた。
(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 片田江康男)

いまの電力供給体制は
非常に危険なシステムだ

「リアルタイム精算」が電力市場を開放に導く<br />原発は緊急時の電源として位置づけるべき<br />――八田達夫・大阪大学招聘教授/学習院大学客員研究員はった・たつお/1943生まれ。経済学博士(ジョンズ・ホプキンス大学)専門は公共経済学。国際基督教大学教養学部卒。オハイオ州立大助教授、ジョンズ・ホプキンス大教授、大阪大学教授、東京大学教授、国際基督教大学教授、政策大学院大学学長を経て、大阪大学招聘教授/学習院大学客員研究員。
Photo by Masato Kato

――電力市場の欠陥はどこにあったのか。

 一番の問題は、緊急時に価格のメカニズムが働かなかったということだ。思い返してほしい。震災後、電力供給量が減り需給が逼迫したのにもかかわらず、電力価格が上がらなかった。実は、大企業も全く同じ状況にあった。

 電力自由化の進んだ国では、需給逼迫(ひっぱく)時に価格が高くなり、利用者が需要を減らしたり、企業が自家発電を増やしたりする動機づけが働く。日本にはその仕組みがなく、ユーザーは所定の料金で好きなだけ使える「使用権契約」を電力会社や新規参入の電力供給会社と結んでいる。

 価格が一定であれば、利用者は電力の使用を控えたり、自家発電で生産した電気を売却しようという動機が働かない。

 電力供給者である電力会社は需要に対応するため、過大な発電設備を持っていなければならない。したがって日本の電力供給体制は堅牢で、外国のように停電が起こることはほとんどなかった。しかし、これは電力が一旦逼迫すると、需給調整をする手段がない非常に危ないシステムだった。大震災後は、結局、どんなに電力を必要とする人に対しても『計画停電』をする結果になった。