佐々木賢一
Photo by Toru Takahashi
杜の都、仙台。人口100万人を抱える東北地方最大の都市で、2000年から外資系大手ソフトウエアメーカーの東北支社長を務めていた佐々木賢一。佐々木がその要職をなげうって、トライポッドワークスを設立したのは05年のことだった。
佐々木がかねて抱いていた悩みを解決するには、起業するほかなかったのだ。
その悩みとは、「中小企業にもっとITサービスを活用してもらいたいが、資金的に難しい」というものだった。
仙台で1兆円企業といえば、東北電力のみ。それ以外は圧倒的に中小企業が多い。しかも、ITサービスを導入するのは、たいてい大企業のみ。というのも、ITサービスを導入するには初期コストに加え、システムを維持管理するための人員が必要となり、多額の費用が継続的にかかるからだ。
中小企業にとってこの費用負担は重く、パソコンを複数台導入するのが関の山。とはいえ、中小企業にもITサービスへのニーズはある。それに応えるには、システムを簡略化し、維持管理が不要なサービスを提供する必要があった。
ところが大手IT企業にとって、顧客の多額の費用こそが収入源。それを失うようなことはできないため、佐々木は起業するしかないと考えたのだ。
地元で働きたいIT技術者を
仙台で獲得
佐々木は、仙台でIT企業を設立することに優位性があるとも考えていた。
この考えは、業界の“常識”とは大きく異なる。というのも、IT関連の企業や人材が東京に集中していることは、業界では周知の事実だからだ。
しかし、佐々木は逆転の発想に立つ。東京に集中しているということは、東京以外に働く場がないことを意味する。つまり、地元に帰って働きたいと思う優秀なIT人材を獲得できるのではないかと考えたのだ。
「壮大な実験です」と話す佐々木の考えは的中し、地元仙台で働きたいと思う優秀なIT技術者を獲得した。そして、東京オフィスには佐々木の理念に共感し、大手IT企業から転職してきた優秀なマーケティング部隊を置いた。