「来年の大統領選の行方も、という言葉も付け加えてほしいね」

 電話の向こうで、一瞬、息を呑む気配がした。半分、いやひょっとすると半分以上は当たっているのか。

〈地震、東京の甚大被害、政治経済機構の崩壊と麻痺、日本経済の破綻、国債の破綻、円の急落、世界経済への波及。少しでも経済を学んだものであれば自明の事実だ〉

「経済を知っていれば、そんなに単純な話ではないことのほうが明確だ。日本経済はアメリカが考えているほど脆弱じゃない。東日本大震災からでも半年で立ち直った」

〈規模が違うだろう。120兆円に及ぶ被害だ。おまけに、東京直下型地震では首都機能が麻痺する。東京が潰れるということは、日本が潰れるということだ〉

 森嶋は言い返すことができなかった。確かに、東北と東京では全てが違いすぎる。

〈来週、俺はまた日本だ。国務長官が総理に会う前にお前に会いたいそうだ。これは、俺のお前に対する友情の証だ〉

 最後はいつもの陽気なロバートに戻り電話は切れた。

 森嶋はベッドに座ったまま、しばらく携帯電話を握っていた。

 大学でのロバートとの交友は1年だった。しかし、寮でのルームメイトという状況は、日本の大学時代4年間の友人以上に濃密な関係を作り上げていた。アメリカの人脈というのはこういう形で作られていくのか、と強く思ったものだ。

「俺にどうしろというんだ」

 声に出して言ってみたが、なにも考えは浮かばない。

 携帯電話を切って、再びベッドに横になったがとても眠れる気分ではない。

 起き上がりパソコンを立ち上げた。

 ロバートが持ってきたレポートを出して、もう一度読み直した。

「アメリカは具体的な対策を求めている」

 ロバートが強調した言葉を口に出して言った。

 たしかに必要なことだがどうすればいい。日本発世界恐慌を回避する対策など、簡単には出ない。