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出口治明の提言:日本の優先順位

読書のすすめ――本から学ぶことの効用と古典の重要性

出口治明 [ライフネット生命保険(株)代表取締役会長]
【第44回】 2012年4月10日
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前回の当コラムで、人間は「人から学ぶ」「本から学ぶ」「旅から学ぶ」以外に学ぶ方法を持たない動物である、と指摘した。自分自身を振り返ってみれば、この3つの方法の中では「本から学ぶ」ウェイトが一番高かったような気がする。そこで、今回は、本から学ぶことの効用、即ち「読書のすすめ」について私見を述べてみたい。

読書の効率性

 例えば、アメリカのオバマ大統領に直接会って話を聞きたいと考えた、と仮定する。飛行機のチケットを買ってワシントンに飛び、1ヵ月滞在して毎日ホワイトハウスに通ったとしても、オバマ大統領に会える確率は限りなくゼロに近いだろう。しかし、リンカーンの話は、実は700円も出せば、ゆっくりと聴くことができるのだ。「リンカーン演説集」を買って読めばそれで足りる。このように、読書は人に会うことや旅に出ることに比べれば、経済効率が著しく高いのだ。これが読書の第一の効用である。

 このことは同時に、読書が著者との対話であることを教えてくれる。人に会って話を聴く時は、じっくりと相手の話に耳を傾けなければならない。読書も全く同じである。およそ人との対話に、速読などあり得ない。速読なるものが百害あって一利なしと考える所以である。いうならば、速読は、観光バスに乗って世界遺産の前で10分間停車し、記念写真を撮っては急いで次の世界遺産に向かう旅のようなものだ。どこどこに行って写真を撮ったという記憶は残るかも知れないが、恐らく何を見たかを明確に覚えている人はほとんどいないだろう。速読は読書に対する冒涜に他ならないと考える。

古典の重要性

 確か、恩師、高坂正堯先生の言葉だったと記憶しているが、「古典を読んで分からなければ、自分がアホやと思いなさい。新著を読んで分からなければ書いた人がアホやと思いなさい(即ち、読む価値がない)」と大学で教わったことを今でも鮮明に覚えている。古典は人類の長い歴史の中で選ばれて今日まで残ってきたものであって、いわば市場の洗礼を十二分に受けている。一冊の古典はビジネス書10冊、いや100冊に勝るかも知れない。経済学で言えば、アダム・スムスの国富論は、今でも書店に並んでいる数多の現在のビジネス経済書100冊に優に匹敵するのではないか。

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出口治明 [ライフネット生命保険(株)代表取締役会長]

1948年、三重県美杉村生まれ。上野高校、京都大学法学部を卒業。1972年、日本生命保険相互会社入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当。生命保険協会の初代財務企画専門委員会委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て同社を退職。その後、東京大学総長室アドバイザー、早稲田大学大学院講師などを務める。2006年にネットライフ企画株式会社設立、代表取締役就任。2008年に生命保険業免許取得に伴い、ライフネット生命保険株式会社に社名を変更、同社代表取締役社長に就任。2013年6月24日より現職。主な著書に『百年たっても後悔しない仕事のやり方』『生命保険はだれのものか』『直球勝負の会社』(以上、ダイヤモンド社)、『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『「思考軸」をつくれ』(英治出版)、『ライフネット生命社長の常識破りの思考法』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。

ライフネット生命HP

 


出口治明の提言:日本の優先順位

東日本大地震による被害は未曾有のものであり、日本はいま戦後最大の試練を迎えている。被災した人の生活、原発事故への対応、電力不足への対応……。これら社会全体としてやるべき課題は山積だ。この状況下で、いま何を優先すべきか。ライフネット生命の会長兼CEOであり、卓越した国際的視野と歴史観をもつ出口治明氏が、いま日本が抱える問題の本質とその解決策を語る。

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