ハーバード・ビジネス・レビュー編集部がおすすめの経営書を紹介する連載。第79回は、前作『リーン・スタートアップ』でビジネス界に衝撃を与えたエリック・リースによる『スタートアップ・ウェイ』を紹介する。

「継続的変革」を生み出す企業に変わる

 昨今、米国シリコンバレー発の企業が世界中に大きなインパクトを生み出す反面、伝統的大企業は苦戦を強いられているように思える。事業環境の変化が激しく、半年前には有効だと心から信じられた施策ですら、気鋭のスタートアップの登場によって、一瞬にして単なる妄想へと変わる。だが、従来型の組織ではその環境変化に逐一対応することは難しい。そうして手をこまねいているうちに、主役の座を奪われてしまうのは、どんな業界でもよく見る光景である。

 筆者のエリック・リースは、前作『リーン・スタートアップ』において、イノベーションを起こし続ける方法論を提示し、その手法は、ゼネラル・エレクトリック(GE)やトヨタ自動車といった伝統的大企業に変革をもたらしたことで注目を浴びた(GE前会長ジェフリー・イメルトによる同社変革の過程は「GEで切り拓いたデジタル・インダストリアル・カンパニーへの道」に詳しい)。本書は、その続編という位置づけであり、一度変革を起こして終わりではなく、変革を起こし続ける企業になるための方法論が記されている。

 リースは、アントレプレナーと議論する際、次のように問いかけるという。「大企業をそれほど嫌うのに、なぜ、自分も大企業を作ろうとするのか」

 当然ながら、どんな大企業も、生まれたときはスタートアップであった。ヒト・モノ・カネはいずれも十分ではなく、けれども、まだ世にない新しい製品・サービスを提供しようという野心と、それを実現するためのスピード感に溢れていた。だが、より大きなインパクトを生み出すために成長を目指し、その手段として組織の拡大を続けた結果、部下を文字通り管理するだけの中間管理職に支配された、安定志向の集団が誕生する。このジレンマは、近年のスタートアップでも起きている現象である。

 リースは、既存の大企業がベンチャー体質に生まれ変わる方法を示すとともに、スタートアップが成長する過程で“大企業化”することなく、変革を起こし続ける組織として成長する方法として「スタートアップ・ウェイ」を提示する。その原則として、(1)継続的イノベーション、(2)スタートアップを仕事の原子単位とする、(3)欠けている機能、(4)再創業、(5)継続的変容、という5つを挙げた。

 それを実現するための詳細は本書に譲るが、筆者自身、「私は『導師』になどなりたくない」と語るように、理想論にとどまらないことは大きな特徴である。GEはもちろん、さまざまな企業の実例を交えながら、フェーズ1からフェーズ3までの順を追って具体論が記されており、いずれも納得感が大きい。