ニッポンに工場は必要ですか?
竹内 日本の電機メーカーのもっとも大きな弱点は、マーケティングが弱いことなんです。ひどい場合は、アップルに行って「これをつくりなさい」と言われてくるのをマーケティングだと思っている。これは単なる御用聞きですね。こんなことだから、人も育たない。
ちきりん どうしてそうなっちゃうんですか?
竹内 メーカーはやはり、「ものづくりが一番」という考えなんですよ。だから、工場が一番エラい、工場に行って管理した経験のある人がエラい、工場長を経験をした人ばかりが社長になる。私も設計とかマーケティングをしながら、工場運営の部門にも行ったことがあるんですよ。「おまえ、上がりたいんだったら、工場運営も経験しろ」と。電機メーカーは、いかに工場をうまく回すかということが大事なんですね。
ちきりん 経団連は、東京電力や政府に対して、電気代を高くしたら日本から工場をなくすぞ!と脅していますよね。私、ずっと疑問なんですが、そもそも工場を日本に残す必要はホントにあるんですか?
竹内 雇用を考えなければ、ないですよ。ただ、一つだけあるとすれば、開発と製造は一緒にやったほうがいい、近い方が効率が上がるというのはありますね。サムスンも開発と製造を同じ拠点でやっています。でも、それだったら工場を台湾につくり、日本人の開発部隊を台湾に駐在させてもいいのです。
たしかに近いと便利ですよ。工場が日本にあればソニーやパナソニック、シャープも近くてエンジニアと話すこともできるし、部品メーカーも日本にはたくさんある。物理的に近いとコミュニケーションが取りやすいですからね。アメリカの半導体メーカーのマイクロンはアイダホ州の州都ボイシにあるんですが、国外への直行便が少ないので、マイクロンの社員は出張にかなりの時間を取られています。それでも十分にやって行ける。いっそのこと、羽田とか成田の周りに工場を集めてほしいですね。台湾につくるなら、地方空港でもいいから空港の周りに工場を集めれば効率がいい。
ちきりん 竹内先生のお考えだと、日本に工場を置く必要はない、ということですが、では日本の大メーカーの経営者は、なぜ工場を日本に置きたがるんでしょうか?
竹内 日本に工場は不要だというと、「竹内、おまえは無責任だ、なっとらん!」と怒られるんですよ。「工場の人たちを雇用することが社是、日本への貢献だと、なぜわからん」みたいに。
ちきりん 雇用が目的だということですか。でも今の日本に、工場で働きたい人がそんなに多いわけでもないと思うんですけどね。あと、いったん工場を日本に置くと地元への責任感なんかもでてきますから、その辺の関係もあるのかもしれない。
竹内 たしかにそういう面もあるでしょうね。
ちきりん 企業城下町なら、その会社のバッジをつけているだけで、名誉市民みたいなものなんでしょうね。
竹内 でも、工場は自動化を進めて人を減らす方向に進んでいますよね、だから、いつまでも大きな雇用を約束できるわけじゃないんです。それなのに、雇用、雇用と叫ぶ人たちが、社長、事業部長……とズラ~と並んでいる。もちろん、工場で多くの人を雇用することができれば一番良いのですが、日本での製造にこだわって、事業が弱ってしまったら元も子もない。もう、生き残るためには、雇用さえも手をつけないところまで、日本のメーカーは追い込まれているのではないでしょうか。
ちきりん 工場を持つメーカーと地元が持ちつ持たれつの関係になるというのは、東電の原発マネーと似た側面もありますね。誰も言ってくれないメーカーのホンネを教えてくださって、スゴク面白いです。竹内先生に感謝します(笑)。