「しかしこれで当分、東京には地震は来ないだろう。被害状況を精査して見ないと分からないが、この程度で済んだのは幸運だった」
総理は誰にともなく呟いた。
朝になっても都内の交通機関が動き出す気配はなかった。
電力会社の被害が予想より大きく、JR、私鉄、地下鉄のすべての電車が運休したままだ。バスも道路を含めた安全確認で止まっている。運転手も半数程度しか集まらないらしい。私鉄は早々と、まる1日の運休を告げた。
高速道路も数か所の崩壊が見つかり、復旧までに数日がかかると発表された。
都内への車の乗り入れは緊急車両のみに制限されている。幹線道路は機動隊で見張られているが、わき道を通って入ってくる一般車両が後を絶たず、都内の交通はマヒ状態が続いていた。
企業も被害状況の把握や後片付けで、実務はほとんどやっていない。開いているのはコンビニやスーパーだけで、銀行のATMも半数以上が使用中止の張り紙が貼ってある。
午後になってやっと自衛隊が投入され、壊れた家の撤去と高速道路や崩れた高架橋の修理に動き始めた。予想より建物、道路の崩壊と歪みが大きく、自衛隊の重機が必要と判断されたためだ。
政府機関の建物被害は大きくなかったが、職員不足と停電のため非常用電源を動かしながら何とか対応している状況だった。
テレビでは終日、地震関係の番組を放送していた。
森嶋たちは、なんとか機能を取り戻した部屋でパソコンを囲んでいた。依然として情報収集はパソコンによるテレビ放送頼りだった。
昨夜は全員が一睡もしていない。
〈板橋区、豊島区、目黒区、台東区などで火事が発生しましたが、現在ではすべて鎮火されています。火事が多く出た地域はいずれも古い木造家屋が多い地域で、今後も余震による出火が懸念されています〉
〈消防車が路上に溢れた帰宅困難者に阻まれて進めず、その間に火災が広がった地区も多いと聞いています。さらに道路の幅が狭く、アパートの側まで消防車が入ることが出来なかった場合も多々あったようです〉
〈そうですね。神奈川や千葉、埼玉からも消防車、救急車、パトカーが派遣されましたが、県境周辺までは対応できたが、都内まで入るには時間がかかるか、入れなかった緊急車両も多いという報告もあります〉
〈今回も液状化の被害が出た地域が多かったそうですね。家が傾き、道路が地下から噴き出した泥で埋まっている地区が多数出ています。いったい、東京近辺の地下はどうなっているんでしょうかね〉
〈不幸中の幸いは、あれほど危惧されていた津波が起きなかったことです〉
アナウンサーとコメンテイタ―が話している。