部下と良好な関係を築く重要性は、さまざまな研究で示されているが、必ずしも「良い」か「悪い」かの二つに分けられるとは限らないだろう。ある側面では尊敬できるが、別の側面では憎いと思うこともあるはずだ。筆者らの調査によると、完全に嫌われている上司よりも、愛憎相半ばのアンビバレントな感情を抱かれている上司のほうが、部下のパフォーマンスを低下させるという。
部下と良い関係を築くのは、リーダーシップの極めて重要な側面だ。上司との関係が良好な部下は、モチベーションが相対的に高く、より優れたパフォーマンスを上げ、チームのために一層の努力をする傾向が強いことが、研究によって明らかになっている。これらのポジティブな効果は、さまざまな職種や企業文化で確認されている。逆に、上司と合わない部下は、上司や組織に報復する傾向があることもわかっている。
ただし、この種の研究の大多数は、上司と部下の関係を良いか悪いか、ポジティブかネガティブかのどちらか一方ととらえている。その結果、誤った二分法を生み出している。
現実には、多くの関係には両面性がある。愛憎相半ばする関係や、友人でもあるライバルのことを考えてほしい。部下も上司に対して感情的アンビバレンスを抱くことがあり、その特徴として、上司に対してポジティブな感情もネガティブな感情も抱く。
たとえば上司のことを、面倒見が良いときもあるし、悪いときもあると考えるかもしれない。あるいは、自分の問題を上司が理解してくれるときもあれば、無理解なときもあると感じることもあるだろう。
我々は最近、『ジャーナル・オブ・マネジメント』に発表した研究で、上司に対して部下が抱くアンビバレンスの影響を探求しようと試みた。具体的には、合計952人を対象に3つの調査を実施した。これら調査参加者のうち、3分の2以上はインドと英国および米国を拠点に働いている成人だった。残りは英国の大学の学部生で、ビジネスのシミュレーションに参加してもらった。
参加者全員に、上司との関係におけるアンビバレンスの度合いを評価するよう依頼した(囲み参照)。また上司との関係について全般的な質(すなわち、関係が良いか悪いか)、および職場で経験した感情の動き(すなわち、ポジティブかネガティブか)についても評価するようにお願いした。その後、参加者の上司に、部下のパフォーマンスに関する評価の提供を依頼した。
3つの調査にわたって、上司との関係に「アンビバレンスを非常に感じる」と回答した部下たちは、「アンビバレンスの度合いは低い」と評価した回答者よりも、仕事のパフォーマンスが(上司の評価によれば)相対的に低いことが判明した。上司との関係の全般的な質の評価を調整した場合にも、結果は同じだった。
すなわち、上司との関係を全般的に良いと評価しているか、悪いと評価しているかとは無関係に、上司に対してアンビバレンスを強く感じている部下は仕事のパフォーマンスが相対的に低かった。上司について相反する感情を抱いている場合、ただでさえ良くない関係はますます悪くなり、良い関係であってもそのメリットを打ち消してしまうのだ。
アンビバレンスの測定
参加者は以下の記述に、同意する・しないの程度を(1=「まったくそう思わない」から5=「非常にそう思う」の5段階評価で)表した。
次の点で相反する思いを抱いている。
1)上司との仕事上の関係が極めて良好と思うときもあれば、そう思わないときもある。
2)問題やニーズを上司に理解してもらっていると思うときもあれば、そう思わないときもある。
3)私の仕事の問題の解決に役立つように、上司が権限を行使してくれると思うときもあれば、そう思わないときもある。
4)上司との関係において、自分の立ち位置を把握していると思うときもあれば、そう思わないときもある。
5)上司が自ら身を投じて私を「救出」してくれると思うときもあれば、そう思わないときもある。
6)上司が私の可能性を認めてくれていると思うときもあれば、そう思わないときもある。
7)上司がその場にいなくても上司の決断を擁護し正当化しようと思うときもあれば、そう思わないときもある。
出所:Graen and Uhl-Bien, 1995