日本や欧米といった先進国の市場が頭打ちの中、韓国や中国の企業が勢いを伸ばし、さらに円高という、つらい状況におかれている日本企業。この状況の打開策の一つとして、新興国、開発途上国におけるビジネスが日本でも盛んに議論され始めている。

 ただし、議論はされ、数多くのシンポジウムにおいても途上国ビジネスがテーマにあがっているものの、いまだに僕がよく聞かれる質問は「中村さん、途上国ではどういうニーズがあるんですか?」というもの。「途上国には行ったことがなく、想像もつきません」、「会社の意思決定が遅く、なかなか市場調査にも行けません」と続く。「調査会社にお願いして調査してもらったんですが、どこかで読んだ同じようなケーススタディしか出てきません」とも聞く。

 僕自身、途上国で長い間暮らしてきたが、家庭レベルの課題に目を向け始めたのはここ5年ほどのことだ。国連スタッフの時代は、大きな援助の枠組みや国の法制度、開発戦略など上流の課題ばかりを扱っており、貧困層の人々が日々の生活の中で直面している課題についてはほとんど目を向けることがなかった。しかし、特にコペルニクを始めて以来、首都ではなく農村部、遠隔地に足繁く通うようになったし、その中で貧困層の人々の日々の生活について多く学ぶようになった。

 というわけで今回は、「そもそも、途上国の貧困層の人々はどのような生活をしているのか」「どのようなニーズがあるのか」について考えてみたい。そこでまずは、彼らに共通する6つの課題を見ていこう。

課題1:現金がない

 途上国の世帯は、当然ながら経済的に非常に貧しい。コペルニクがプロジェクトを行なっている東ティモール・オイクシ県での調査結果によると、1月の1世帯平均支出は約70ドル。1世帯の平均人数が約5人なので、1人当たりにすると1ヵ月14ドル。つまり、1日あたり50セントも使っていないということになる。この少ないお金の中で生活に必要な食料、エネルギー代、教育費、医療費、洋服代などをやりくりしているのだ。

 世界銀行の最新調査によると、最貧困層と言われる、1日1.25ドル以下で生活する人々の数は世界で12.9億人、1日2ドル以下で暮らす人々は24.7億人にものぼる。

課題2:電気がない

 夜は真っ暗。わずかな明かりをともすのに、灯油ランプを使う。灯油の値段は非常に高く、貧困層の家計を圧迫しているだけでなく、灯油ランプを燃やす時に出る有害な煙を大量に吸うことになる。家の中はほぼ真っ暗であるため、子どもは夜間ほとんど勉強することができない。風が吹けば灯油ランプは消えてしまうし、もし倒してしまった場合は火事の危険もある。