(2)市場の支配的な戦略を見抜き、
無効化する「イノベーション」

 イノベーションとは、相手の指標を覆す形で新たな指標を導入することです。筆者が知る限り、イノベーション創造の法則をもっとも明快に書き残している日本人は、ソニー創業者の一人、故・盛田昭夫氏です。

 超小型トランジスタラジオ、ウォークマン、トリニトロンTV、家庭用ビデオカメラなど、世界中の人々に親しまれる人気商品を生み出し、ソニーを世界的企業に押し上げた、日本が誇るイノベーターです。以下、盛田氏の著書『MADE IN JAPAN~わが体験的国際戦略』(朝日文庫)から抜粋してみましょう。

「このトリニトロン小型カラーテレビに関しては、競争相手の心配はまったくなかった。わが社がこの個人用カラーテレビにつけた14万4千円(400ドル)という値段は、アメリカで大きなキャビネットつきの23インチの白黒テレビが買えるほどの金額だったのだ」

 この高価格にも関わらず、なぜ盛田氏は自信を持っていたのか。その理由は3つ書かれています。

・今後アメリカでは居間のカラーテレビが増えるが、盛田氏は台所や寝室、戸外に“持ち出せる”個人用のテレビの需要を予測していた。
・持ち運びの便利さではダントツ(トリニトロン方式で小型化に成功)
・戸外に持ち出すときに有利な「画面の明るさ」を備えていた

 注目したいのは、盛田氏が挙げている「売れる理由は」いずれもアメリカ製の居間に置かれるカラーテレビとは“違う指標”であることです(当時は白黒からカラーTVへの移行期でした)。

 この構造、何かに似ていると思いませんか?

 そう、これまで紹介した「零戦VS米軍戦闘機」や、アップルのiMacやiPodによるイノベーションの構造とほとんど同じなのです。

 盛田氏のいた頃のソニー製品は、ライバルだったアメリカ製カラーテレビの指標を理解した上で、まったく別の指標によって購入されるオリジナル商品を目指して、大ヒットを記録することになったのです。

 既存の市場を支配する「指標としての戦略」を見抜き、それを無効化する新しい指標を導入して圧倒的な勝利を収めることが、イノベーションです。そのためには、現在の支配的な指標をまず見抜くことが大切であり、同じ指標を追いかけないことが大切になります。

 過去は成功したが、既に「効果を失った指標」にいつまでも固執をすれば、イノベーション創造の法則を理解している側にとって、最も料理しやすい対象、倒しやすいカモになってしまうことも肝に銘じるべきでしょう。