『週刊ダイヤモンド』2018年8月11・18日合併特大号の第一特集は「2018年版 決算書100本ノック!」。特集の発売に合わせた特設サイトでは過去の財務特集の人気記事や漫画などを無料で公開。今回は2015年1月24日号「孫正義 世界を買う」から「ソフトバンク執念の資金調達テクニック」を紹介。小が大を飲み込むソフトバンクの買収劇。それを支える執念の資金調達テクニックを95年から振り返る。(掲載される数字は全て雑誌発売時点のもの)

1995年
ジフ・デービス、コムデックス
資産管理会社で為替リスクをヘッジ

 1994年7月22日、店頭市場に株式公開したソフトバンクは、2万円近い初値と、100倍台のPER(株価収益率)で、期待の新興企業として注目を浴びた。また、発行済み株式の約70%を持つ37歳の創業者・孫正義社長は、時価評価で200億円以上の資産を手にし、一躍有名人となった。

 その後、ソフトバンクは大型買収で名をはせる。94年12月、米ジフ・デービスの展示会部門を約127億円で、翌95年4月に米インターフェースグループのパソコン展示会「コムデックス」事業を約749億円で買収。ジフからは96年2月に出版部門も1853億円で買い取った。

 このとき、ソフトバンクが手に入れたのは、ジフやコムデックスが持つIT業界における“最新の情報収集力”だった。

 89年から94年にかけて孫社長の秘書を務めた大槻利樹・現アイティメディア社長が述懐する。

「当時、コムデックスはラスベガスを舞台にした世界最大のITトレードショーで、米国の先進産業の最も象徴的な場だった。買収直後のコムデックスでは、孫社長が主催者として前夜祭の壇上に立ち、ビル・ゲイツを紹介するわけです。これで、世界のIT業界のキーマンとのコネクティビティは格段に高まった」

 興味深いのは、米2社の買収に当たり、社債と転換社債、および増資で資金調達を行ったが、ソフトバンクが直接、2社を買うというかたちは取らなかったこと。買収金額1582億円は、孫社長の資産管理会社・孫興産が100%保有し、ソフトバンクの半数の株式を持つ親会社である有限会社エムエーシーを通じて、米国子会社のソフトバンク・ホールディングス・インクに流れ、この米子会社が買ったことになっている。

 社長は当時、「為替変動などのリスクを、ソフトバンクではなくエムエーシーがかぶるため。僕はソフトバンクに損害を与えたくないだけ。こんなありがたい大株主はいないだろう」と語っていた。

 だが、現実には為替差益がエムエーシーに生じてしまい、市場から疑惑の目を向けられることになった。公開企業と私企業を巧みに組み合わせ、自身に利益誘導をしているのではという疑いである。