今回、この番組を作ることになったきっかけは、ある身近な疑問だった。番組のディレクターである私は、身長170センチ、体重90キロ。25以上が肥満と判定されるBMIは31。かなりの肥満だ。しかし血液検査の結果は全く問題なしの健康。

 しかし、私の上司であるプロデューサーは、BMI21の標準体型であるにも関わらず、なぜか総コレステロールやLDLが高いなど、動脈硬化の危険があると判定された。

 太っていると不健康、やせていると健康――これが従来からの常識であったはず。では、私たちの体に起こっていることは一体何なのか?

肥満=病気?
常識はもう通用しない

 太っているといえば、まず思い浮かぶのは力士。番組の取材に協力してくれた幕内力士の霜鳳関は、体重143キロ、ウエストは133.5センチ、BMIは45という高度な肥満体型だ。しかし、血液検査を行うと、血糖値もコレステロール値も正常、糖尿病や動脈硬化の危険は全くなかった。

 ある企業の健康診断会場。ここでは、標準体型にも関わらず、コレステロールや中性脂肪値が高く動脈硬化の危険がある人、血糖値が高く糖尿病の危険が高く糖尿病の危険がある人など、「太っていないのに生活習慣病の危険がある」人々に多く出会った。

 この企業の調査では、生活習慣病の危険があると診断された人の実に6割が標準体型かそれ以下だという結果が出ている。つまり、「太っているから不健康、やせているから健康」という常識は必ずしも通用しないのだ。

 さらに、太ったことで糖尿病が改善したという人にも出会った。この男性、9年前に糖尿病と診断されたが、いまでは食事をほとんど気にしなくていいほど、病状は大きく改善している。男性を救ったのが、新しいタイプの糖尿病治療薬。この薬を飲み始めたところ、体重は5キロ増加したにも関わらず、血糖値は正常範囲にまで改善したのだ。

第3の脂肪「異所性脂肪」が
私たちを襲う!

肥満=病気は、もう通用しない! 「皮下脂肪で病気を防ぐ」という、健康の新常識
力士(左)と会社員(右)の腹部CT写真。青い部分が皮下脂肪で、赤い部分が内蔵脂肪。会社員は皮下脂肪は少ないが、内臓脂肪は非常に多いことがわかる。

 太っていても健康な力士、太っていないのに病気の危険がある会社員。それぞれ、体内の脂肪の付き方を調べてみた。力士の場合、皮下脂肪が分厚く、内臓脂肪は非常に少ない。対して、会社員は、皮下脂肪は少ないが、内臓脂肪は意外なほど多い。内臓脂肪が多いと、病気の危険が高まると考えられている。しかし最近、内臓脂肪以上に危険な“第3の脂肪”の存在が注目されている。

肥満=病気は、もう通用しない! 「皮下脂肪で病気を防ぐ」という、健康の新常識
細胞内にたまった異所性脂肪の様子。むき出しの状態で臓器や組織の細胞の中に直接たまるため、脂肪の持つ毒性がダイレクトに組織や臓器を侵してしまう。

 この第3の脂肪は「異所性脂肪」と呼ばれる。心臓や肝臓、すい臓、筋肉など、命を支える臓器や組織に蓄積し、生活習慣病など様々な病気を招く。通常、脂肪は脂肪細胞というカプセルに脂肪がくるまれた状態で存在している。しかし異所性脂肪は、むき出しの脂肪が臓器や組織の細胞の中に直接たまる場合が多い。脂肪の持つ毒性がダイレクトに組織や臓器を侵す、恐ろしい脂肪なのだ。この第3の脂肪がたまっている人がいま、急増している。