会議や打ち合わせの最中、スマートフォンやノートPCを触っている人を見かけることは多い。自分でもやってしまうことはあるだろう。話をしている側にとって気持ちいい状況ではないが、やめて欲しいと相手に伝えるのは難しい。かつては想像していなかった社会の環境が生まれたとき、新しい規範を定着させるには、どうすればよいのか。


 大丈夫、あなただけではない。その疑問、誰もが一度は抱いたことがある。目の前にノートPCを開いた上司は、本当に話を聞いてくれているのだろうか……? 

 疑うのは、もうやめよう。「聞いていますよ、先を続けてください」と上司は言ったかもしれないが、間違いなく聞いていなかった。あなたも私も同時に2つのことはできないと、何十年も前に研究によって明らかになっている。しかも、最近の研究によれば、デバイスの画面が光ったり電子音が鳴ったりしなくても、単にスマホが近くにあるだけで、目の前のことに集中する能力が損なわれるという。

 問題は、テクノロジーの変化にマナーが追いついていないことだ。筆者がバイタルスマーツの同僚とともに行ったオンライン調査によれば、友人や家族と話しているとき、相手がデバイスの動作に気を取られ、きちんと話を聞いてくれないことが少なくとも週1回はあると答えた回答者が、9割近くに達した。また回答者の4人に1人が、そうした妨害のせいで、友人や家族と深刻な亀裂が生じたと答えている。

 では、そうした妨害に直面したとき、人々はどのように対応しているのだろうか。弊社が行った別の調査によると、多くが何もしていない。相手の無礼に抗議する人は1割に過ぎず、相手の行動を無視する(37%)、とがめるような表情を浮かべるなど言葉以外の方法で不満を表す(26%)、単にその場を立ち去る(14%)など、大多数の人が黙して語らずの状態なのだ。

 私たちが直面する、これまでになかった新しい社会状況に対して、社会規範が自然発生して追いつくのを、私たちはつい待ってしまう。だが社会規範は、自然に発生したり、追いついたりしない。社会規範が形成されるのは、規範を脅かす人に対して立ち上がる人の数が、クリティカル・マスに達したときである。

 無礼な行動によって誰かが非難を浴びるたびに、非難された当人だけでなく、そうした行動を目撃した誰もが、次のように心に刻むことになる。「注意しよう。葬式の最中に電話に出たら、ひんしゅくを買うんだな」と。

 それでは、特に職場において、こうした社会規範の変化を加速させるには、どうすればよいだろうか。たとえばあなたは、電話やメールの返信で頻繁に話の腰を折る同僚がいて困っている、あるいは、会議でプレゼンテーション中にメールをチェックする人が多くてうんざりしているとしよう。

 まずは、言葉にして抗議することだ。気まずい雰囲気が漂うかもしれないが、無礼な行動に対して多くの人が適切に対応すれば、新しい礼儀の規範が定着するはずだ。そのプロセスを始動させる方法を、いくつか紹介しよう。