アマゾンは先頃、全スタッフの最低賃金を時給11ドルから15ドルに上げると発表し、大きな注目を浴びた。連邦最低賃金が時給7ドル25セントであることを考えると、長らくコスト削減を徹底してきた同社によるこの取り組みは奇妙にも映る。筆者らは、アマゾンによる賃上げの意図とそれがもたらす効果を、経済学の観点から読み解く。


 2018年10月、アマゾンは最低賃金を自発的に時給15ドルに引き上げると発表し、大きな注目を浴びた。

 連邦最低賃金がわずか時給7ドル25セントであることを考慮すると、この誓約は奇妙な決断のように映るかもしれない。特にアマゾンのような、コスト抑制に徹底的に専心している企業であればなおさらだ。

 しかし、賃上げに伴うコストだけを考えていると重要な問題を見逃すことになる。賃上げは職場の生産性を上げる可能性もあるのだ。

 アマゾンは、データ主導型の(そして長期指向の)企業という至極当然の評価を得ている。その点を考えると、同社の経営陣は分析を行い、その結果として「賃上げは商業的にコストよりメリットのほうが大きい」と判断した可能性が高い。

 アマゾンは、こうした決断を下した最初の企業ではない。なかでも注目すべきは、2018年初めにウォルマートが最低賃金を時給11ドルと定めたことだ。我々は、他の企業にも、賃上げは自社を利する懸命な判断であることに気づいてほしいと考えている。

 実際のところ、アマゾンは最低賃金の引き上げをめぐり、あまりに独善的ではないかとも批判されている。賃上げ発表の直後から、その財源はボーナスや手当のカットによって賄われ、従業員に何らメリットはないのではないか、という懸念が持ち上がった。

 我々は、最低賃金がビジネスに与える影響、および高賃金が従業員のやる気と生産性を高める仕組みを研究したことがある。また、企業が向社会的(または反社会的)な行動をしようとする動機に大きな関心を抱いてきた。アマゾンの発表を見ると、賃上げは同社の従業員にとっても会社の収益にとっても好ましいことだと見なすべき理由があるのだ。