東芝のLNG事業、中国企業への売却に立ちはだかる米国の「壁」Photo:DOL

 東芝は米国テキサス州の液化天然ガス(LNG)プロジェクト「フリーポート」について、中国の民間ガス大手ENNグループに売却することで合意した。2013年に結んだ契約価格と現在のLNG取引相場の差額を補填する「一時金」をENNに支払い、フリーポートを手掛ける米国子会社の株式を譲渡する。

 本誌が11月9日にダイヤモンド・オンラインへ配信した通り、国内企業にそっぽを向かれ、欧米企業にも交渉を打ち切られた末、LNGを“爆買い”する中国勢の筆頭格ENNが東芝の救世主になった。

 最大1兆円の損失ともいわれた東芝の“負の遺産”は、930億円の“出血”で抑えられた。しかし、これで一件落着とはいきそうにない。

 フリーポート売却に当たって東芝はENNに米国の子会社の株式を譲渡するため、対米外国投資委員会(CFIUS)の承認が必要になるが、米中貿易戦争の真っただ中にあり、CFIUSが、東芝の大きな壁となって立ちはだかる可能性がある。

 11月8日のアナリスト向けの説明会で、東芝の平田政善CFO(最高財務責任者)は、「ENNは過去にCFIUSを通っているので、売却成立の蓋然性は高い」と楽観視する。

 しかし、ルールよりも自らの利益を優先するトランプ米大統領。CFIUSの権限を強化する法案が今年8月に成立していて、何が起きるか見通せない。すでに日本企業の“実績”もある。LIXILグループが、米国に取引先を持つイタリア建材子会社を中国企業に売却しようとしたところ、CFIUSが承認しなかったのだ。

 目下のところ、中国政府は大気汚染防止対策の一環で、工場や発電所などの燃料を石炭から天然ガスに急速にシフトさせている。中国企業は何が何でもLNGを“爆買い”せざるを得ない状況だ。

 経済成長に欠かせないエネルギー供給を少しでも断つことができれば、中国に与えるインパクトは小さくない。CFIUSを活用して“安全保障”という名の下、トランプ大統領の強権を発動することもあり得る。

 東芝が“負の遺産”を解消するまで、もう一つ峠を越える必要がありそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 千本木啓文)