不安なのに準備できない 
急増する老後難民「予備軍」

「体はまだまだ健康なのに、お金が続かない。こんな年になって路頭に迷うなんて、考えたくもない」

 都内に住む吉川治夫さん(仮名、75歳)は、毎朝のウォーキングを日課とするかくしゃくたる老紳士だ。酒もたばこもやらず食事にも気を使ってきたおかげで、「健康診断はすべてA評価」だという。

 本来なら、健康な体で妻と2人、楽しく老後を過ごせるはずだった。ところが、である。蓄えていた老後の生活資金が、あと数年で尽きようとしている。「こんなに長生きするとは思わなかった」という吉川さんは、定年退職で得た退職金を、何の運用もせず貯金して、少しずつ取り崩して生活してきた。

 75歳の平均余命から考えると、吉川さんはあと11年、70歳の妻はあと19年強生きる可能性が高い。この先の長い老後を少ない年金だけでどう生きていけばいいのか。「寿命が尽きるのが先か、老後資金が尽きるのが先か」――。そんな不安が吉川さんの頭をよぎる。

 これは決してひと事ではない。吉川さんのような老後難民「予備軍」は少なくないからだ。

1万人アンケートの衝撃
44%が老後資金準備ゼロ

 フィデリティ退職・投資教育研究所が2010年2月に行った「サラリーマン1万人アンケート」がそのことを裏付けている。