熱狂から目覚めるための唯一の薬とは?

『バブルの物語』のなかで、ガルブレイスは自らの経験についても記述している。

「1986年の秋に、当時株式市場に醸成されつつあった投機的な動きに私は注目した。プログラム売買・指数取引などに表わされる投機や、それに関連して、企業乗っ取り、LBO、合併・買収熱といったことから生じる熱狂が私の関心を惹いた。『ニューヨーク・タイムズ』紙からこうしたことについて論説を書くよう依頼され、私は大いに乗り気で承諾した。
 ところが悲しいことに、私の論説ができ上がると、『タイムズ』の編集者は、それが余りにも人心に不安を与えるものだと考えた。私は、この論説で、市場は典型的な熱病ムードに入っており、崩壊は避けられない、と明言していたのである。もっとも、いつ崩壊が来るかについては、用心深く予言を差し控えておいた。
『タイムズ』から断わられたこの論説は、1987年の初め『アトランティック』誌が喜んで掲載した。しかしながら、同じ年の10月19日に暴落が起こるまでの間は、この論説に対する反応は少なく、あっても不利なものであった。」

 まさにガルブレイス自身も、バブルへの警告を発することで痛い目に遭っていたのだ。1987年10月19日とは「ブラックマンデー」と呼ばれる史上最大級の株価大暴落が起きた日である。そして、彼はこう続ける。

「皮肉な批判の一つは、『ガルブレイスは人が金儲けをするのを見るのが嫌いなのだ』というものであった。ところが、10月19日の後となるや、私が会ったほとんどすべての人は、私の論説を読んで感服したと語ったものだ。この暴落の日だけでも、全米各地、東京、パリ、ミラノから、40人ほどのジャーナリストやテレビ解説者が私のコメントを求める電話をかけてきた。
 熱病的ムードの性質ならびにそこにある既得利益からすれば、批判者が、喝采とまではいかなくても、少なくとも是認を受けるには、実際に暴落が起こるまで待たなくてはならない、ということは明らかである。」

 暴落こそが人々の目を覚まさせる唯一の薬であるというのは、なんと皮肉なことだろうか。

(つづく)