古今東西で起きた金融バブルとその崩壊過程を描いた『バブルの物語』。“経済学の巨人”と称された故ジョン・ケネス・ガルブレイスが著した同書は、バブルを希求する人間の本質と、資本主義経済の根幹に迫った名著として長く読み継がれてきた。
今、世界中で株価が乱高下し、先行き不透明感が増している。はたして現在の経済状況はバブルなのか? だとすればその崩壊は迫っているのか? それを見極めるうえで『バブルの物語』は極めて有効な教訓を与えてくれる。同書のエッセンスを紹介する連載の第3回は、なぜ人々がバブルを繰り返すのか、その理由に迫る。

金融に関する記憶は極度に短い

『バブルの物語』では、17世紀オランダの「チューリップ・バブル」をはじめ、それ以降に起きたいくつもの大規模な投機のエピソードを俎上に載せて分析している。ガルブレイスはこうした事例を用いてバブルを生む「陶酔的熱病(ユーフォリア)」への警告を発するのだ。しかし、一方で「本当に警戒心を持つのは一部の人だけかもしれない」と悲観もしている。

 なぜなら、熱病を発生させ、それを支える2つの要因を、人々がほとんど無視しているからだという。その要因について彼は以下のように説明する。

「(熱病を発生させ、それを支える第一の要因は)金融に関する記憶は極度に短いということである。その結果、金融上の大失態があっても、それは素早く忘れられてしまう。さらにその結果として、同一またはほとんど同様の状況が再現すると──それはほんの数年のうちに来ることもあるのだが──、それは、新しい世代の人からは、金融および経済界における輝かしい革新的な発見であるとして大喝采を受ける。」

「人間の仕事の諸分野のうちでも金融の世界くらい、歴史というものがひどく無視されるものはほとんどない。過去の経験は、それが記憶に残っているとしても、現在のすばらしい驚異を正しく評価するだけの洞察力に欠けた人の無知な逃げ口上にすぎないとして斥けられてしまう。」

 つまり金融の世界では、金融上の新たな発見やツールに踊らされて痛い目に遭っても、そうした過去の失敗の教訓がすぐに忘れ去られ、まったく活かされないというのだ。さらには、教訓を活かそうとして警告を発すれば「洞察力に欠けた人の無知な逃げ口上」として無視されかねないのである。

 たしかに、バブルが数年から十数年ごとに沸き起こり、そのたびに「金融および経済界における輝かしい革新的な発見」が喧伝されることに心当たりがある人は多いだろう。

 たとえば「ITバブル」は、ITという革新的なツールによって景気循環が消滅しインフレなき経済成長が実現すると説いた「ニューエコノミー論」に支えられた。同バブルは2000年前後に崩壊するが、それ以降、ニューエコノミー論を目にする機会はほぼなくなった。そして、わずか8年後にあのリーマンショックが発生するのである。

 リーマンショックはアメリカの住宅バブル崩壊がきっかけで発生するが、背景にはサブプライムローンの不良債権化があった。この新たなローンも「金融工学」という革新的な道具を駆使して生まれたものなのである。