ある日、青年は弾き語りのストリートミュージシャンとなり、神々の大らかな自然観を体感します。

 やがて旅の終わりに蕎麦の道にたどり着きました。

 美しい“精進料理”で遠来の客を迎える「一如庵」。奈良の蕎麦は神妙なオーラで輝いていました。

(1)店のオーラ
神の道は食に通じる

 “森羅万象に神々が宿る”、日本の古からの信仰は自由で大らかなものがありました。

 奈良時代に編纂された「古事記」や「日本書紀」はその神々が生まれ、国が創られていく壮大なロマン歴史書です。現在、その神々を祭る神社は約8万社あるといわれ、正月に約9千万の人々が参賀します。

 ある日、その神道(しんとう)の自然観を学ぼうと、青年は日本国中の神社を巡る旅に出ます。

 桶谷一成(いっせい)さん、「一如庵」の亭主の若き頃です。

 「一如庵」、仏教由来の変わった屋号が付けられています。

 蕎麦屋では珍しく「精進料理」と銘うってあり、これも気になっていました。

 が、「一如庵」にもっとも僕が惹かれたのは、料理の美しさでした。飾りつけやレイアウトといった技巧を超えたものがあるような気がしていました。

先祖伝来の黒漆塗り膳に白いプレート。そこに小宇宙が野菜たちによって描かれている。旬菜をていねいに煮たり、揚げたりして、工夫を凝らす。右写真はおあげとわけぎのぬた。

 そこには食材への畏れとか、自然への憧憬といった空気感があり、不思議なオーラのようなものを感じたのです。これまで僕が宿坊などで経験した「精進料理」とはかなり違ったものでした。

 桶谷さんは19歳の春にギターを抱えて、出家するように生家のある奈良を後にします。東京で弾き語りのストリートミュージシャンを始めたのです。

“淡麗な味わい”、「一如庵」流の精進料理とマッチングする蕎麦を創り上げてきました。

 長渕剛や尾崎豊を歌い、オリジナルソングを作り、東京から全国を回遊し、韓国にも渡ったそうです。

 イタリア料理店や居酒屋の調理のアルバイトで生計を立てながらの旅でした。念願のCDを制作し終わり、やがて一つのピリオードを打つ時と感じる日がきます。25歳まで歌い流れていました。

 「その頃、神道に気持ちが走りだしました」