「働き方改革」の掛け声が広がるが、オフィスのあり方を見直す企業はいまだ数少ない。企業のCRE戦略(企業不動産戦略)に詳しいニッセイ基礎研究所の百嶋徹上席研究員は、イノベーションを創出する手段として「クリエイティブオフィス」を提唱する。これについて詳しく聞いた。(取材・文/渡辺賢一)

従業員の生産性向上をサポートする
クリエイティブオフィス

 欧米企業に比べてROE(自己資本利益率)が低い日本企業。「中長期的に企業が“稼ぐ力”を高めるためには、従業員の能力や創造性を引き出すための創造的なオフィス、すなわち『クリエイティブオフィス』の構築・運用が有効です」と、ニッセイ基礎研究所社会研究部の百嶋徹上席研究員は指摘する。

 百嶋上席研究員はCRE(企業不動産)戦略の主な役割として、(1)日々の事業活動における不動産ニーズに対するソリューションの提示、(2)中期的な経営戦略の遂行をサポートする不動産マネジメントの立案・提案・実行、(3)経営層や事業部門など「社内顧客」のニーズと外部ベンダーのサービスをつなぐリエゾン(橋渡し)機能の3つを挙げる。

「中でもCRE戦略のコア機能と言えるのが(2)です。オフィス戦略についても、中期経営戦略の遂行を支えるという視点で策定すべきです」(百嶋上席研究員)

百嶋徹
ニッセイ基礎研究所社会研究部上席研究員。1985年野村総合研究所に入社し、証券アナリスト業務および財務・事業戦略提言業務に従事。野村アセットマネジメント出向を経て、98年ニッセイ基礎研究所に入社。専門は、企業経営、産業競争力、産業政策、イノベーション、CRE、環境経営・CSRなど。国土交通省『CRE戦略実践のためのガイドライン』の「事例編」の執筆を担当(2008~10年)。明治大学経営学部特別招聘教授を歴任(2014~16年度)。共著書『CRE(企業不動産)戦略と企業経営』(東洋経済新報社)で、第1回日本ファシリティマネジメント大賞奨励賞を受賞。CRE戦略の重要性をいち早く主張し、普及啓発に努める

 その一案として百嶋上席研究員は、「知的生産性の向上による革新的なイノベーションの創出」という中期経営戦略の遂行をサポートする「クリエイティブオフィス」の構築・運用を提唱する。

「日本では国を挙げて『働き方改革』の動きが広がっていますが、改革の本質である『従業員の生産性向上』に向けたサポートや施策がないまま、従業員に時短の徹底を強いている企業が多いように感じます。『働き方改革』を『従業員の生産性向上』に結び付けるという視点からも、クリエイティブオフィスの重要性が高まっているのではないでしょうか」(百嶋上席研究員)

 百嶋上席研究員によると、グーグルやアップルに代表される先進的なグローバル企業のオフィスづくりには、いくつかの共通点が見られるという。「クリエイティブオフィスの『基本モデル』ともいうべきこれらの共通点を貫く大原則は、オフィス全体を街や都市など一種の『コミュニティ』や『エコシステム』ととらえる設計コンセプトに基づいているということです」と、百嶋上席研究員は話す。

 例えば、アップルが2017年にカリフォルニア州クパチーノの広大な敷地(約71万㎡)に構築した新本社屋「アップル・パーク」には、セキュリティで管理された研究開発施設に加え、アップル直営小売店舗「アップルストア」や一般にも開放されるカフェを併設したビジターセンター、9,300 ㎡にも及ぶ社員向けフィットネスセンター、各々3km超の社員用のウォーキングやランニングコース、席数1000の「スティーブ・ジョブズシアター」などが設置されている。まさに、巨大な社屋の中にひとつの街が再現されたかのようだ。