アベノミクスの成長戦略の一環として、「コーポレートガバナンス改革」が2014年以降に打ち出されたことで、日本の経営者もROE(自己資本利益率)重視の経営を強く意識するようになった。これを踏まえた上でいかにCRE戦略(企業不動産戦略)に取り組むべきか、企業経営について多角的な視点から研究しているニッセイ基礎研究所の百嶋徹上席研究員に聞いた。(取材・文/渡辺賢一)

グローバル水準のROEを達成するには
”稼ぐ力”を高める必要がある

 機関投資家向け行動原則『日本版スチュワードシップ・コード』(2014年2月)及び、上場企業向け行動原則『コーポレートガバナンス・コード』(2015 年6月)の制定などのコーポレートガバナンス強化策には、「日本企業の”稼ぐ力”を高めるべく、経営者のマインドを変革する意図がある」とニッセイ基礎研究所の百嶋徹上席研究員は説明する。

 この施策の主な狙いには、グローバル水準のROEを達成するための”攻めの経営判断”を後押しする仕組みの強化がある。経済産業省『持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~』プロジェクト最終報告書、いわゆる『伊藤レポート』(2014年8月)では、目指すべきROEの最低ラインとして8%を提案している。

「日本企業のROEは、欧米企業に比べ低い水準にとどまっていますが、その主因はROS(売上高利益率)の低さにあります。従って、日本企業のROE向上には、ROS=“稼ぐ力”そのものを抜本的に高めることが不可欠なのです」(百嶋上席研究員)

百嶋徹
ニッセイ基礎研究所社会研究部上席研究員。1985年野村総合研究所に入社し、証券アナリスト業務および財務・事業戦略提言業務に従事。野村アセットマネジメント出向を経て、98年ニッセイ基礎研究所に入社。専門は、企業経営、産業競争力、産業政策、イノベーション、CRE、環境経営・CSRなど。国土交通省『CRE戦略実践のためのガイドライン』の「事例編」の執筆を担当(2008~10年)。明治大学経営学部特別招聘教授を歴任(2014~16年度)。共著書『CRE(企業不動産)戦略と企業経営』(東洋経済新報社)で、第1回日本ファシリティマネジメント大賞奨励賞を受賞。CRE戦略の重要性をいち早く主張し、普及啓発に努める。

ROE(税引利益÷売上高)×(売上高÷総資産)×(総資産÷自己資本)
   =ROS(売上高利益率)×総資産回転率×財務レバレッジ
   =ROA(総資産利益率)×財務レバレッジ
   =ROA÷自己資本比率

 また、上の算式(註1)を見ると、目先のROEは自社株買いで財務レバレッジを高めれば、自動的に上がることがわかる。従って、ROEのみを経営指標とすると、財務安定性を損なうリスクを高める可能性があるという。

「自己資本コストを上回るROEの確保は経営者の責務ですが、財務安定性を大きく毀損するようなROE向上は問題です。経営者がやるべきは、ROA (総資産利益率)向上と財務レバレッジのバランスを取ることです。財務レバレッジを適切にコントロールしながら、戦略的な投資によるROSの向上をドライバーとして、ROAを中長期的に高めることに腐心すべきなのです。そうすれば結果として、ROEは向上するでしょう」(百嶋上席研究員)

註1 百嶋上席研究員が執筆した「コーポレートガバナンス改革・ROE経営とCRE戦略」ニッセイ基礎研究所『基礎研レポート』2017年3月29日に掲載