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守りと攻めの「両利きの経営」が、
日本企業の未来を拓く

内山悟志[ITR会長/エグゼクティブ・アナリスト]
【第90回】 2019年3月15日
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業務のあり方を変革する

 「深化」に該当する領域のなかで、従来の事業で提供している製品・サービスの価値を従来の事業・顧客層に提供する領域(図1の左下)においても、デジタルイノベーションの機会はある。これまでもIT活用という範囲では、業務効率化や情報共有などに取り組んできたが、AI、RPA、IoTといったデジタル技術の活用を前提にして社内業務のあり方を見直すことで、新たな適用領域が浮かび上がってくるだろう。仕入れや製造の方法、売り方や顧客への製品・サービスの届け方、原価を含むコストや品質、顧客との接点やサポートのあり方などを変革することが考えられる。

 例えば、作り方の変革では、自動車設計において3次元のシミュレーション技術を活用することによって実際に車を衝突させることなく、衝突安全装置の性能試験ができるようになる。これまで目視で行っていた製品の品質検査を画像処理技術によって自動判別するといった取り組みにより、品質の改善や労務費の削減に貢献することもあるだろう。コンタクトセンターに寄せられる問い合わせや質問に、チャットボットが回答することも考えられる。紙ベースや手作業で行っていた作業を、ソフトウェアロボットや物理ロボットが代行するといったことも現実化してきている。組織運営および意思決定プロセスの変革や働き方改革といった社内の業務改革においてもデジタル技術を活用する場面は多く、これらもデジタルイノベーションの有力な対象領域といえる。

 この領域におけるイノベーションには、すでに存在するプロセスやこれまで常識と考えていた慣習に疑問を持ち、「そもそもこの業務は必要なのか」「このプロセスは何のためのものなのか」といった視点で検討することが求められる。

新しい顧客価値を創出する

 従来の事業・顧客層に対して新たな価値を提供するためには、新しい価値を生み出さなければならない(図1の左上)。「深化」の領域ではあるが、単に自社を中心に据えて効率化を追求することにとどまらず、顧客を中心に据えて課題やニーズを掘り下げ、市場の動きを理解することが求められる。

 製品・サービスを改良することも価値向上のひとつだが、それだけでなく、機器販売を月額課金制にしたり、無償で提供していたサービスを有償化したりといった価格・課金方式の変革も有効な打ち手となる。それによって、従来の顧客層に対して新たな顧客体験や付加価値を提供することで、顧客満足度やリピート率の向上に寄与し、アップセル・クロスセルの促進に貢献することが可能となる。宅配便の再配達依頼をスマートフォンからできるようにするとか、毎回注文する消費財を「Amazon Dash Button」で補充購入できるといった顧客にとっての利便性の向上も新規の価値といえる。

 例えば、ぴあは創業当初は興行情報を掲載した情報誌である「月刊ぴあ」を有償で販売する出版社であったが、ビデオテックスやインターネットなどのニューメディアの台頭を受けて、オンデマンドでチケットを発行するチケット販売会社に転身した。今では、ネットで予約して、最寄りのコンビニや自宅でチケットを受け取れるという提供形態の変革によって顧客体験を刷新し続けているといえよう。

 この領域でのイノベーションでは、徹底した顧客視点が重要であり、顧客体験を起点とした業務設計およびビジネスモデリングが求められ、デザイン思考のアプローチが有効となる。

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内山悟志[ITR会長/エグゼクティブ・アナリスト]

うちやま・さとし/大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストととして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任。2019年2月より現職。


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日々進化するIT技術をどうやって経営にいかしていくか。この課題を、独立系ITアナリストが事例を交えて再検証する。クラウド、セキュリティ、仮想化、ビッグデータ、デジタルマーケティング、グローバル業務基盤…。毎回テーマを決め、技術視点でなく経営者の視点で解き明かす。

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