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インキュベーションの虚と実

なぜスゴそうな人も大ゴケするのか?
テーマで間違うスタートアップ

本荘修二 [新事業コンサルタント]
【第5回】 2012年6月18日
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 ある日本のスタートアップ関係者は言う。元のアイデアがひどい上、とりあえず作ってみて出したら誰も使わず、リーン・スタートアップぶってピボットする。ところが、ろくにフィードバックももらっていないから、またうまくいかず、すぐあきらめてまたピボットするというパターンだ。

 こいつらアホか(KA)と言いたくなるような、無計画なやり方だ。“fail fast”(早くあきらめる)を忘れ、こうしてゾンビ化しているスタートアップには、誰かが「お前はすでに死んでいる」と教えてやらねばならない。

 書籍「リーン・スタートアップ」や前出のAnyPerk記事にもあるように、3ヵ月後のデモデーといった期限や目標を置く、マイルストーン・プラニングは昔からベンチャーの基本だ。色々なアイデアを試すのはよいが、その後がdiscipline=修練なしでは、どうにもならない。

 そもそも日本では、「ベンチャーを志しているので、勉強するために講習会やスクールに行こうと思う」とか言うと、「ベンチャーは勉強するより先にやれよ、何言ってるんだ」と言い放つ大人は驚くほど多い。プロ野球解説では「気持ち」という言葉が頻繁に聞かれることもあるが、ビジネスのスタートアップでは気持ちだけの猪侍(いのししざむらい)がうまくいくわけではない。知識なしでも気合で頑張れた時代も確かにあっただろうが、成熟経済で知識集約型の事業が求められているいま、猪突猛進で戦うのは愚かだ。

 “ピボット”を広めた一人である「リーン・スタートアップ」著者エリック・リースも「とにかくやってみよう」から脱却するよう唱えている。「とにかくやってみよう」では、いくら頭のいい優秀な人でも次々に失敗するのが現実だ。

 それに、千数百円の本を買っただけで過大な期待をしてはいけない。

 例えば、筆者がメンバーの社内起業研究会で出版した「成功する事業・失敗する事業」を読んで、分かった気になって本の方法論を実践した大企業が間違った使い方をしていて唖然としたことがある。日本でも、“ピボット”などスタートアップの方法論が注目されているが、本質を理解せず、形だけ真似ようとする勘違いがよくみられる。ちゃんと理解してくれている読者は少なく、その使い方も間違いが多いのが現実だ。どう役立てるかは読者次第だ。みなさんも、種々の方法論は適切に学んで上手に使っていただきたい。

 もっとも、リーン・スタートアップへの反論もいくつかあるようだ。しかし、どう取り組めばよいかは、それぞれのスタートアップ固有のことで、創意工夫が不可欠だ。それに万能の魔法の杖などありはしない。リーン・スタートアップもORを実践する上でのプロダクト開発のための方法論のひとつである。皆が、あるいは○○さんが言っているからではなく、自ら正しいことを見つけ、それを実行することだ。

大胆さと繊細さ
テーマ設定に求められるもの

 筆者が知る、成功した米国の起業家の何人かは、驚くほど大局観のある議論を日頃繰り返している。大きな変化の波をどうとらえるか、どのような意味があるのか、そしてチャンスは、と常に考え議論しているから、いいアイデアが生まれるのだ。

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本荘修二

新事業を中心に、日米の大企業・ベンチャー・投資家等のアドバイザーを務める。多摩大学(MBA)客員教授。Net Service Ventures、500 Startups、Founder Institute、始動Next Innovator、福岡県他の起業家メンター。BCG東京、米CSC、CSK/セガ・グループ大川会長付、投資育成会社General Atlantic日本代表などを経て、現在に至る。「エコシステム・マーケティング」など著書多数。訳書に『ザッポス伝説』(ダイヤモンド社))、連載に「インキュベーションの虚と実」「垣根を超える力」などがある。


インキュベーションの虚と実

今、アメリカでは“スタートアップ”と呼ばれる、ベンチャー企業が次々と生まれている。なぜなら、そうした勢いある起業家たちを育てる土壌が整っており、インキュベーターも多く、なにより、チャレンジを支援する仕組みが存在するからだ。一方の日本はどうなのだろうか。日米のベンチャー界の環境の変化や最新のトレンドについて、25年にわたってベンチャー界に身を置いてきた本荘修二氏が解説する。また日本でベンチャーが育ちにくいと言われる背景を明らかにし、改善するための処方箋も提示する。

「インキュベーションの虚と実」

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