7月4日、「見つけたと思うが、どうだろうか?」と欧州原子核研究機構(CERN:European Organization for Nuclear Research)の所長ロルフ・ホイヤー(Rolf Heuer)氏は問いかけた。CERNの大型ハドロン衝突型加速器(LHC:Large Hadron Collider)で実験を行っている2つの研究チームが、未知の「ヒッグス粒子」をほぼ確実に発見したとの発表があった。

 ほぼ確実とは、99.9999%間違いない確率で実験的に検証されたということ。昨年12月時点で99.7%間違いないレベルで見つかっていたので、予想通りの話だ。この粒子は顕微鏡で見えたということではなく、LHCで陽子と陽子の衝突実験を行って「見える化」する。ヒッグス粒子の存在する場合と存在しない場合を素粒子物理で計算して、実際の実験結果に照らし合わせて存在の確率を計算するわけだ。衝突実験を重ねるほど、確率精度は増すので今回の偉業に至ったわけだ。

CERNの年間予算は900億円

 未知の素粒子発見というだけで、何か心が躍る出来事だ。筆者は学生の時に物理をかじり、一応「素粒子の標準理論」を習っている。それは美しくシンプルだった。その時は、実際に発見されていたものは数少なかった。そのうち、社会人になると物理とはまったく無縁な世界に入ったが、新素粒子発見にはそれなりの関心があった。

 6つのクォーク、6つのレプトン、5つのゲージ粒子(数は括り方によって異なる)が発見され、残りはヒッグス粒子だけになった。2008年からCERNのLHCが稼働し10年以内に発見されるといわれていた。もし発見されなければ、標準理論に修正を加える必要があり、そのほうが物理学のためになるという理由で、有名なホーキング博士は発見されないことに100ドル賭けていたが、負けてしまったようだ。もちろん喜んで負けた。

 2008年からCERNのLHCは稼働したが、運転当初に事故があった。また、あまりに高いエネルギーを発生させるために、局所的に「ブラックホール」が発生し、最悪の場合に地球が飲み込まれる可能性もあると報じられた。運転当初の事故を乗り越え、また、懸念されたブラックホールもあまりに小さく、すぐ蒸発するので問題になっていない。これはホーキング博士のいうとおりだ。