フリスビーで遊んだときのこと

フリスビーに夢中の加藤嘉一氏。東京、代々木公園にて。Photo by DOL

「フリスビー、ありますか?」

 7月14日の昼下がり。東急ハンズ新宿店の2階で、男性店員に尋ねた。一時帰国中だった私は、久しぶりに一日だけ休みが取れたので、友人と体を動かしながら遊ぼうと計画していた。

 店員さんは一瞬ひるんだ。「バッグ&トラベル、サイクル」フロアの2階で、フリスビーの陳列棚の場所を聞かれることなど、そう多くはないのだろう。しかし、その店員さんはすぐに、「フリスビーですね、8階にございます」と、笑顔で対応してくれた。深々とお辞儀までされ、逆にこちらが恐縮してしまった。

「日本はやっぱりすごいなあ。2階にいる店員さんが、8階にあるものまで詳細を把握しているんだから。しかも、フリスビーだよ?」

 店員さんに御礼を述べて、エレベーターに乗り込みながら、隣にいた友人に感慨を漏らした。サービスのプロとはこのことだ、と改めて感じた。

 買い物を終えた友人と私は東急ハンズを後にし、代々木公園へ向かった。帰国時にランニングでよく来る場所だ。きちんと整備された緑いっぱいの公園は、ランナーにとっての聖地といっていい。

 その日、代々木公園ではキャッチボールに夢中になるカップル、サッカーを楽しむ親子、フリスビーに汗を流す男性集団もいた。笑い声が絶えない。皆、周りを気遣い、距離感を保って、思い思いの楽しい時間を過ごしていた。ほかのペアーがミスしたボールが飛んで来れば、率先して拾ってあげていた。拾ってもらった側は、「ありがとうございます!」と御礼を言う。拾ってあげた側は、ちょっと照れくさそうに笑う。

「やっぱり、日本っていいな。日本人として生まれてきてよかったな」

 そう思わずにはいられなかった。

 私と友人も、まるで子どもの頃に戻ったかのように、無邪気にフリスビーを投げて遊んだ。