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廉宗淳 韓国はなぜ電子政府世界一なのか

「民業圧迫」批判を振り切り、「教育のICT化」を強力に推進する韓国政府のリーダーシップ――学校教育におけるICTの正しいあり方とは(前編)

廉 宗淳 [イーコーポレーションドットジェーピー株式会社代表取締役社長]
【第6回】 2012年8月2日
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年間3000円で名門塾の講義が受講できる
公営教育専門放送局によるネット塾

 私の家庭は貧しかったので、中学時代、親から「お前を大学に進学させるお金はない。高校を卒業したら働け」と言われました。勉強は好きでしたが、この一言で、勉強に対する意欲をそがれ、高校卒業後、就職しました。このように、いくら勉強をしたくても親の所得や地域などその子どもが置かれている環境によって教育格差は生じてしまいます。教育格差は次の所得格差を生み、負の連鎖を招きます。

 このような負の連鎖を断ち切ろうと、2004年に始められたのが、韓国の公営教育専門放送局である韓国教育放送公社(EBS)によるインターネット塾「EBSi」でした。年間3000円程度の会費を払えば、大学受験の全科目について、名門塾のカリスマ講師による講義の動画を、インターネットを介して、誰でも、どこからでも受講できることから、急速に人気が高まりました。

 しかし、その結果、既存の塾に通う受験生が激減し、塾の経営者たちから「民業圧迫なので、すぐに中止せよ」との抗議が殺到しました。そこで、野党議員がこの件に関して、国会で与党に詰め寄りました。それに対し、答弁に立った日本の文部科学省にあたる教育科学技術部は、「確かにこの事業は民業圧迫だ。しかし、韓国には親の所得や住んでいる地域を理由に、良質の教育を受けられない子どもたちが大勢いる。EBSiを止めてしまえば、彼らが受ける被害の方が甚大だ。是非とも理解して欲しい」と発言しました。

 この発言は国民の大きな支持を集めました。それにより、EBSiは継続することになったのです。加えて、教育科学技術部は、大学のセンター入試を、高校の授業と、このEBSiの講義で教えた範囲内からしか出題しないと宣言しました。その結果、6年後の2010年には、EBSiの会員数は350万人を突破。現在も増え続けています。

 また、韓国政府も、貧しい家庭にはパソコンを無償で提供したり、回線料金の一部を負担するなどして支援しました。また、韓国は早くからブロードバンド回線を整備していたので、EBSiは2004年当時から、動画を同時に視聴できる人数が10万人を実現できていました。このようにして、韓国の子どもたちは、ICTによって、教育の機会均等を手に入れたのです。

 さらに、韓国政府は、「サイバー家庭学習」と呼ばれる小学生、中学生、高校生向けのWebサイトも開設しました。同サイトでは、生徒のレベルに合わせて3種類のコンテンツを用意していて、生徒は下校後、自宅で授業の予習や復習を自由に行うことができます。しかも、パソコンだけでなく、スマートフォンを使っての学習も可能です。

 同サイトでは、先生による授業を動画で配信しているため、生徒たちは、授業中とは違って、自分のペースに合わせて、分かるまで何度でも繰り返し視聴することができます。質問がある場合は、メールを送信すれば、回答を返信してくれます。

 また、ソウル市江南(カンナム)区でも、独自にインターネット塾を開設しています。ここは、名門塾が集積した韓国の中でも恵まれた区です。そこで、区民税を使い、区民だけでなく、全国の子どもたちに、安価で授業を提供しているのです。現在、会員数は20万人を超えるといいます。江南区では毎年5億円の区民税をインターネット塾に使っていますが、塾の年会費が約3000円なので、なんと年間1億円の黒字だそうです。

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廉 宗淳
[イーコーポレーションドットジェーピー株式会社代表取締役社長]

1962年生まれ。大韓民国空軍除隊後、国立警察病院、ソウル市役所に 勤務。日本でのプログラマー経験を経て、韓国で株式会社ノーエル情報テック設立。2000年、日本でイーコーポレーションドットジェーピー設立。青森市の 情報政策調整監、佐賀県情報企画監、総務省の電子政府推進委員や政府情報システム改革検討会構成員を務めている。

廉宗淳 韓国はなぜ電子政府世界一なのか

お隣の韓国は、国連の電子政府ランキングでここ数年、1位が指定席。かたや、日本は順位を下げ続け2012年は18位。韓国の電子政府は何がすごいのか、日本が学ぶべきポイントはどこか。90年代前半に日本でITを学び、現在は、行政、医療、教育などの分野でITコンサルティング事業を展開する廉宗淳氏が、日本の公共サービス情報化の課題を指摘する。

「廉宗淳 韓国はなぜ電子政府世界一なのか」

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