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連載経済小説 東京崩壊
【第61回】 2012年8月6日
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高嶋哲夫 [作家]

スクープ

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【前回までのあらすじ】
長谷川は集まった首都移転グループ全員に対して、この新首都の模型は一つの案であることを強調した。全員が真剣な表情で長谷川の言葉に聞き入った。長谷川たちは2時間ほど説明して帰っていった。
説明が終わり、森嶋と優美子が話していると森嶋の携帯電話が震えた。高脇からだった。今日の昼のテレビニュースを見てくれという。
テレビ放送は、神戸の計算科学研究機構の一室からの生放送だった。
〈予想される東京直下型地震はマグ二チュード8.6。最高震度は7。最悪の場合、4メートルの津波が東京湾を襲います。5年以内の発生率は92パーセント以上〉
総理執務室では総理を含めて3人の男がこの放送を観ていた。これから大企業はもちろん、個人も大挙して東京を逃げ出し始めるだろう。パニックが起こる前に有効な対策を立てなくては――。総理は首都移転チームの村津を呼ぶように指示を出す。
ほどなくして3台の車が総理官邸を出て六本木に向かった。インテリジェントビルの前で止まり総理と官房長官らが車を降りた。長谷川は総理を会議室に案内する。中央には白い紙で造られた新首都の模型が置いてあった。総理は無言でテーブルの上の模型を見つめた。
その日、森嶋は終電間際まで役所にいた。首都移転の現実性をここ数日間の出来事で部屋中の者が感じていた。しかし、テレビで計算科学研究機構の発表が行なわれたあと、村津の姿が見えなかった。
霞が関から新橋まで歩いたが、町には昼間の騒ぎの余韻がまだ濃く残っていた。行き交う人たちも気のせいか普段とは違って急ぎ足だ。地下鉄の駅を出たところで、高脇から電話があった。高脇が急に姿を消したのは、政府の地震対策本部に呼び出されたからだという。守秘義務の契約書にサインさせられ、世界屈指のスーパーコンピュータを使って、研究に没頭していたという。

第3章

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 「家族とは連絡を取ったか」

 森嶋は高脇に聞いた。

〈電話で話した。あまり大げさにしたくない。自分の我がままで神戸まで行っていたと言ってある〉

 「すでに大きな騒動になっているんだ。研究室でも大騒ぎだった」

〈僕が抜けても研究は継続される。それが近代科学の特色だ。真の天才なんて必要なくなったんだ〉

 前にも聞かされたことのある高脇流の考え方だ。

 「これからどうする」

〈しばらくこっちで研究を続ける〉

 それに、と言ってしばらく沈黙があった。

 「家族を呼び寄せようと思ってる。東京は危険だ。だから君も早く──」

 高脇の言葉が途切れた。

 「連絡を続けてくれ」

〈そうするよ〉

 電話は切れた。

 

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高嶋哲夫 [作家]

1949年、岡山県玉野市生まれ。1969年、慶應義塾大学工学部に入学。1973年、同大学院修士課程へ。在学中、通産省(当時)の電子技術総合研究所で核融合研究を行う。1975年、同大学院修了。日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)研究員。1977年、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)へ留学。1981年、帰国。
1990年、『帰国』で第24回北日本文学賞、1994年、『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞、1999年、『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞で大賞・読者賞など受賞多数。
日本推理作家協会、日本文芸家協会、日本文芸家クラブ会員。全国学習塾協同組合理事。原子力研究開発機構では外部広報委員長を務める。


連載経済小説 東京崩壊

この国に住み続ける限り、巨大地震は必ずくる。もし巨大地震が東京を襲ったら、首都機能は完全に麻痺し、政治と経済がストップ。その損失額は110兆円にもおよび、日本発の世界恐慌にまで至るかもしれない――。今後、日本が取るべき道は何か。その答えを探る連載経済小説。

「連載経済小説 東京崩壊」

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