北朝鮮による拉致被害者家族や支援団体は、北朝鮮への制裁解除、テロ支援国指定解除の停止を求めて連日集会を開き、サミットに集った各国首脳たちにアピールし続けている。
その切なくも必死で不屈の訴えに応えるかのように、ブッシュ米国大統領は記者会見で、福田首相から贈られた拉致被害者家族が綴った本を掲げ、米国が拉致問題解決に取り組み続けることを約束した。
だが、それがリップサービスにしか過ぎないことは、普段よりはるかに饒舌である不自然さだけからでなく、北朝鮮が最も恐れる制裁を米国が棚上げしていることからも明白である。
米国しかできない、徹底すれば北朝鮮が干上がってしまう効果的な制裁――それは、北朝鮮を国際金融システムから締め出してしまう金融制裁である。
2005年9月に米国が開始した金融制裁に朝鮮がなぜ1年以上も6者間協議を拒否するほど強く反発したのか、その一部解除によって北朝鮮がなぜ非核化交渉に入ったのか、国際金融システムと結びつけて金融制裁の威力を解説したものは少ない。ここで、ていねいに振り返ってみよう。
金融制裁は、米国財務省が米愛国者法にもとづいて、マカオのバンコ・デルタ・アジア(BDA)に開かれた北朝鮮関連の52口座(合計2500万ドル)をマネーロンダリング(マネロン)の懸念があると認定したことに始まる。
ここで、2つ強調しておきたい。
第1に、担当するのが外交当局である国務省ではなく、金融当局である財務省であることだ。米国財務省は麻薬資金洗浄問題に端を発し、9・11事件以後はテロ資金供与の防御が至上命題に加わって、世界各国と銀行界に対してマネロン防止体制の構築を主導してきた。米国はその法制度強化――ロウ エンフォースメント――の一環だという立場に立った。