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莫邦富の中国ビジネスおどろき新発見

日本のサービス精神は細部に宿る
失われつつある心に一抹の寂しさ

莫 邦富 [作家・ジャーナリスト]
【第118回】 2012年8月23日
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 生活の基盤を日本に移してからすでに27年。四半世紀以上も日本で生活していると、それなりに日本社会の移り変わりを自分の目で、肌で体感できたと思う。日本での最大の感動は、むしろ日常生活のうえで体験した多くの小さな感動だった。

新幹線で体験した
車掌の小さな心遣い

 地方講演が多いために新幹線の利用も多く、車内で車掌の検札を受ける。こちらが差し出した乗車券と特急券に検札印を入れた後、「ありがとうございました」とあいさつしながら返してくれる。

 しかし、そこで発見があった。時々、車掌が乗車券と特急券の正面を抱き合わせるようにして切符を返すのだ。一瞬なぜそうするのか分からなかったが、すぐにその心遣いに気付いた。たいてい切符はワイシャツのポケットに入れるものだ。検札印を押すと、乾いていないインクでシャツを汚す恐れがある。正面を抱き合わせるようにすれば、心配はいらない。この小さな親切にほのぼのとした気持ちになった。

 駅の改札口を出るとき、ときどき後の交通費の請求のため乗車済みの乗車券をもらって帰ってくることもある。そこでも何度か似たような体験をもつ。乗車券に「無効」と印を押してから、駅員がその乗車券を横に用意された紙切れに押し、そのインクが吸い取られたのを確認してから渡してくれる。こうした光景を見つめながら、心の中で頭を下げる。日本のサービス精神はまさにこうした小さなところに宿っている、と感心する。

 しかし、最近、JRの社員がどんどん若い社員に変わってくるに従って、以上のような小さな親切には、なかなか出会えなくなった。

 今週、大阪から帰ったとき、自宅の最寄りの駅で、乗車済みの乗車券がもらいたいと申し出たら、「無効」印が押された乗車券が突き戻された。インクがべたべたのままだったから、それを取った私の指先がインクのため青くなってしまった。

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莫邦富(モー・バンフ) [作家・ジャーナリスト]

1953年、上海市生まれ。85年に来日。『蛇頭』、『「中国全省を読む」事典』、翻訳書『ノーと言える中国』がベストセラーに。そのほかにも『日中はなぜわかり合えないのか』、『これは私が愛した日本なのか』、『新華僑』、『鯛と羊』など著書多数。


莫邦富の中国ビジネスおどろき新発見

地方都市の勃興、ものづくりの精度向上、環境や社会貢献への関心の高まり…中国は今大きく変わりつつある。先入観を引きずったままだと、日本企業はどんどん中国市場から脱落しかねない。色眼鏡を外し、中国ビジネスの変化に改めて目を凝らす必要がある。道案内人は日中を行き来する中国人作家・ジャーナリストの莫邦富氏。日本ではあまり報道されない「今は小さくとも大きな潮流となりうる」新発見を毎週お届けしよう。

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