共同通信の取材を受けた。数時間前にシリアでの銃撃戦で死亡したジャーナリストの山本美香さん(ジャパンプレス)についてである。
「ぼくより彼女を知っている人はたくさんいますよ。ほかのジャーナリストたちにも聞いてくださいよ」
こう前置きした上で、彼女の人となりを話すことにした。彼女は、いつも遠慮がちで、いつも控えめで、そしていつも真っ直ぐで、なにより優しかった。
「私なんか申し訳ないよ。すごいジャーナリストの人たちばかりでしょ」
確か、彼女がイラク戦争の取材でバグダッドから戻ってきたばかりのころだから、10年位前だったと思う。
銀座・泰明小学校脇の高架下の古い料理屋で、藤本順一さん、森功さん、有田芳生さんらフリーのジャーナリストらと定期的に開催していた呑み会(アリとキリギリスの会)に、山本美香さんを誘った時に返ってきたのがこの答えだ。
その後、筆者がキャスターを務める番組『ニュースの深層』(朝日ニュースター)に誘った時もそうだった。
「私なんかに一時間の生放送なんてとても、とても――。イラクやアフガニスタンならばもっと詳しいジャーナリストがいるから、そちらにお願い。最後に私が出るわ」
いつもこうだった。
「自分は何もできない。記事も書けないし、頭が良くないから単にビデオを持って現場に行くだけ」
もちろんそんなことはない。聡明な文章を書き、話も巧い、なによりジャーナリストとして謙虚だった。