オバマが、アメリカ大統領として史上初めて「同性間の結婚を支持する」と公に発表したのは今年5月。その約2ヵ月後、南部のジョージア州アトランタに本社を置くファストフードチェーン店「Chick-Fil-A」(チック・フィレ)の社長が、メディアのインタビューを通して、「あくまで男女間のみの結婚を支持し、同性婚に反対する」という意志を表明した。
その日から、全米1600店以上あるチック・フィレ店舗を舞台に、「同性婚」の賛成派と反対派による激しい闘いの火ぶたが切って落とされたのだった。
「同性婚」合法化の議論とチキンサンドイッチの店。この異色の組み合わせに全米の消費者や政治家らが次々と声を上げ、この夏、アメリカで一番の話題となっている。
いよいよ熱を帯びてきた米国大統領選において、「同性婚」は大きな争点の1つとなっているだけに、その行方は見逃せない。現地取材を通じて、大統領選の課題に迫る。(取材・文・撮影/ジャーナリスト・長野美穂)
「憎しみの味がするチキンだ」
ファストフード店が騒動の渦中に
カリフォルニア州のトーランス。日本企業のトヨタ自動車やホンダのアメリカ拠点もある、ロサンゼルス(以下、LA)郊外の街だ。8月3日の朝、この街にある「Chick-Fil-A」(チック・フィレ)のフランチャイズ店舗が、ニュースの主役となった。
「Tastes like hate」 (憎しみの味がする)。店の壁には、そう大きく黒字で落書きされていた。文字の横には、チック・フィレのキャラクターで、「もっとチキンを食べよう」と呼びかけるテレビCMに使われている「牛」のイラストまでご丁寧に描かれていた。
落書きのメッセージは、このファストフード・チェーン店の社長であるダン・キャシー氏が表明した「同性婚反対」への反発と見られ、地元ロサンゼルスのメディアはトップニュースで報道した。
落書き騒ぎがあった当日の正午過ぎ、このトーランス店に行ってみた。大通りに面した店の横にある駐車場は、次から次へとやって来るクルマで溢れていた。