大阪市は“全国初”となる画期的な試みに挑んでいる。それは、小・中学校の校長50人の公募だ。東京都では初となる中学校の民間校長を経験した、元リクルート社フェローの藤原和博氏は、「教育改革のためにはマネジメントマインドをもった民間校長が必須」と言い切る。そこで、今回の公募を元校長として支持し、応援している藤原氏に、教育業界の現状と民間校長を登用することで得られる効果、また民間校長に求められる素質について語っていただいた。
“配給制時代の米屋の主人”=偉い人はいらない!
求めているのは、新しい価値を増殖させるクリエイティブな校長
1955年生まれ。1978年東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルートに入社。東京営業統括部長や新規事業担当部長などを歴任後、93年よりヨーロッパ駐在、96年同社フェローとなる。その後、2003年より5年間、東京都では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校校長を務める。2008年~2011年までは橋下大阪府知事の特別顧問に。成熟社会の人生戦略を描いた近著「坂の上の坂」(ポプラ社)は12万部のベストセラー。
南 藤原さんは東京都で義務教育初の民間校長となり、現在は文科省直属の教員研修センターで全国の校長・教頭にマネジメントの講習をされています。校長になる方は「マネジメントマインド」を持っていることが必須だとお聞きしました。具体的にはどのようなものでしょうか?
藤原 マネジメントとは、さまざまな資源を組み合わせて価値を増殖していくことだと考えています。子どもたちが分からないことを分かるように、できないことをできるようにするために。マネジメントは管理ではなくクリエイティブなのです。ドラッカーを引用するならば、イノベーションとマーケティング。管理は情報を素早く処理することであり、マネジメントは情報を編集して付加価値を生み出すことです。
ですが、校長の7割は、まるで配給制時代の米屋の主人。均等に米を渡す偉い人という立ち位置をいまだに守っています。現在の豊かな経済社会では、人の要望も多様化し複雑化しているので、同じ米を同じだけ渡したところで何の意味もありません。無農薬農家やブランド米農家と直接契約する人も出てくるでしょう。
同じように、学習には学校のほかにも塾という学ぶ場所があるので、子どもたちにとって学校がすべてではないのです。外にある資源や地域社会、若い世代、第二の人生を始めようとしている団塊世代など、すべての要素を学校や子どもたちにつなげていくマネジメントを、学校経営の世界にも広めていくべきだと思っています。
たとえば、僕は中学校の校長を務めていたときに、学校で教えられる知識と実際の世の中をつなぐために、「よのなか科」という科目を作りました。その科目では身近な視点から世界や世の中の仕組みを考えるテーマ、たとえば「あなたがハンバーガー店の店長ならどこに店を出す?」「政治とお金のビミョーな関係」などを設けて、民間で活躍するさまざまなゲストティーチャーを招き授業を行いました。この取り組みは、子どもたちはもちろん保護者にも非常に好評で、日本全国の学校にジワジワ取り入れられるようになっています。