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3分間ドラッカー 「経営学の巨人」の名言・至言

真に新しいものは市場調査することはできない
モニタリングするしかない

上田惇生
【第305回】 2012年10月1日
著者・コラム紹介バックナンバー
ダイヤモンド社刊 2310円(税込)

 「今日ではあらゆる組織が、変化に伴うリスクを軽減するために、あらゆる種類の市場調査を行っている。だが、まったく新しいものについて市場調査を行うことはできない」(『明日を支配するもの』)

 ドラッカーは、真に新しいものには、イノベーションを行なった者や企業家には想定できなかったニーズや市場が必ずあるという。それはほとんど、自然の法則といってよい。しかも、市場調査がそれらのニーズや市場を発見できないことも、ほとんど自然の法則といってよいという。

 その典型が、1776年にジェームズ・ワットが設計し、特許を得た鉱山の排水用蒸気機関だった。ワットが考えた蒸気機関の使途は、炭鉱の排水だった。したがって、売り込み先も炭鉱会社だけだった。

 ところが、友人のマシュー・ボールトンが紡績工場に売り込んでみたところ、これが大当たりとなった。紡績工場へワットの蒸気機関を納入した15年後には、綿糸の価格が7割も下がった。

 こうして史上初めて、衣料の大衆市場が生まれ、近代工場が生まれ、近代資本主義が生まれ、近代経済が生まれたのだった。

 加えて、蒸気機関は、綿摘み労働力への需要を急増させ、消滅しつつあった奴隷制度まで復活させた。さらに米国においては、南北戦争を引き起こし、ついには奴隷制度の廃止までもたらした。

 もちろん、このような展開を読んでいた経済学者や社会学者はいなかった。鉱山用のイノベーションであったのでは、産業を変え、政治を変え、社会を変えることまでは読み切れないのが当然である。

 つまるところ、影響力の大きなイノベーションほど、その使途は予期できないものになるということである。市場がなく、真に新しいものには、市場調査は無効である。ないものについて調査はできない。

 その昔、コンピュータの市場は、全世界で最大1000台とされていた。コンピュータの使途が科学計算用だった時代には、ビジネス用の市場は調査できなかった。

 「いかなる市場調査といえども、現実の代わりをつとめることはできない。したがって、新しいもの、改善したものは、すべて小規模にテストする必要がある。つまり、モニタリングする必要がある」(『明日を支配するもの』)

週刊ダイヤモンド

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上田惇生(うえだ・あつお) 

 

ものつくり大学名誉教授、立命館大学客員教授。1938年生まれ。61年サウスジョージア大学経営学科留学、64年慶應義塾大学経済学部卒。経団連、経済広報センター、ものつくり大学を経て、現職。 ドラッカー教授の主要作品のすべてを翻訳、著書に『ドラッカー入門』『ドラッカー 時代を超える言葉』がある。ドラッカー自身からもっとも親しい友人、日本での分身とされてきた。ドラッカー学会(http://drucker-ws.org)初代代表(2005-2011)、現在学術顧問(2012-)。

 


3分間ドラッカー 「経営学の巨人」の名言・至言

マネジメントの父と称されたドラッカーの残した膨大な著作。世界最高の経営学者であったドラッカーの著作群の中から、そのエッセンスを紹介する。

「3分間ドラッカー 「経営学の巨人」の名言・至言」

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