セクハラは、じつに難しい問題だ。相手が嫌がるのにお尻を触ったり、ラブホに誘ったりすれば、完全にハラスメントだ。言い逃れはできないだろう。では、女性の洋服や髪型を誉めたらどうなるのか。本心で言っていても、相手に「キモイ」と言われてしまったら、それはセクハラになるのだろうか。このシロかクロかのラインを引くのが難しいのがセクハラ問題。ここがはっきりしないと、女性を誉めることも、言葉をかけるのも怖くなってしまう。分かりやすいセクハラ相談事例と、セクハラとは判断がつきにくい事例を挙げながら、職場での対策について考えてみたい。(弁護士・松江仁美、協力:弁護士ドットコム

パート女性が長く続かない
背景にはセクハラ課長の存在

「先生、困っちゃったよ、セクハラだよ、セクハラ」

 顧問先の会社社長から、緊急で呼び出されたので行ってみると、苦笑いを浮かべた社長が部屋で待っていた。

「え……? 社長が?」

「何を馬鹿な、私がするわけないでしょ(笑)。私の部下ですよ、部下」

「社長の部下って、社長室の方は私の知る限りそんなことをする人はいないような……」

「いや、パートの女性たちを束ねる部署の課長ですよ」

 どうやらパートの女性(20代後半)から直訴があり、当該課長から性的嫌がらせを何度も受けていたというのだ。その女性は悩んだ結果、パートの仲間に付き添われ、さらに直属の上長にあたる次長に被害を相談してきたらしい。

 この次長がすぐに部長に相談し、これを受けた部長の命令で次長が実態を調査したところ、以前からこの課長は問題があることがわかった。新しいパート社員が来ると、すぐにお茶に誘ったり飲みに誘ったり。パートの女性の間では、セクハラ課長だという噂はあったらしい。

 部長もパートが長く居着かず、変わってばかりいるので変だという話は耳に入っていたようだ。パートがころころ変わる原因が、今回はっきりした。