8月中旬、消費税増税を柱とする社会保障と税の一体改革法案が国会で成立した。これにより、現在5%の消費税は、2014年4月に8%、2015年10月に10%へと、2段階で引き上げられることが正式に決まった。しかし国民の間では、「こんな不況下で増税されたら生活していけない」「増税の前にやるべきことがあるのに、なぜ今なのか」といった疑問や不安が根強くくすぶっている。そんななか、大和総研の熊谷亮丸・チーフエコノミストは、近著『消費税が日本を救う』(日本経済新聞出版社)で独自の主張を展開している。消費税率は今、本当に引き上げる必要があるのか。また、引き上げても大丈夫なのか。専門家の間でもいまだ賛否が分かれる消費税のメリットとデメリットを今一度見直し、来るべき税率引き上げで何が起きるのかを、熊谷氏に詳しく聞いてみよう。(まとめ/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)
今なお不満がくすぶる消費税増税
「ギリシャと日本は違う」は本当か
――熊谷さんは、消費税増税の必要性を唱えています。しかし、先頃民主、自民、公明の三党合意により成立した増税法案については、今なお国民の間に根強い不満が残っており、議論が続いています。増税が必要な背景には、日本のどんな実情があるのでしょうか。
大和総研チーフエコノミスト。東京大学大学院修士課程修了。1989年、日本興業銀行に入行。同行調査部エコノミスト、みずほ証券エクイティ調査部シニアエコノミスト、メリルリンチ日本証券チーフ債券ストラテジストなどを経て、現職。財務省「関税・外国為替等審議会」の委員をはじめとする様々な公職を歴任。過去に各種アナリストランキングで、エコノミスト、為替アナリストとして合計7回1位を獲得している。「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京系)レギュラーコメンテーター。著書に『日経プレミアシリーズ:消費税が日本を救う』(日本経済新聞出版社)など。
国民負担率と政府の社会保障支出のバランスを見ると、今まで「中福祉・低負担」と言われてきた日本は、足もとで「高福祉・低負担」に近づいています。
そのため、財政の持続可能性が極めて危うい状況にある。政府債務残高の対GDP比は210%以上となっており、第二次世界対戦末期の混乱期とほとんど変わらない状況。はっきり言って、欧州債務危機の発端となったギリシャのほうがずっとマシです。
今後は増税を行なう一方、社会保障費を中心に歳出をカットし、国民的なコンセンサスともいえる「中福祉・中負担」の状態へ移行していく必要があります。
――本当にギリシャより危機的な状況なのですか。
そう思います。よく「ギリシャと日本は違う」という意見を聞きますが、そうではありません。たとえば、2009年の秋、債務危機が起きる直前のギリシャの5年物CDS(※)スプレッドは1.2%くらいでしたが、日本のそれは1.0~1.5%前後のレベルを中心に推移してきました。