最低賃金が1%上がったときの雇用の減少率

参議院議員選挙が終わり、主要政党はいずれも時給1500円以上の最低賃金を公約に掲げた。最低賃金の引き上げは、今や保守からリベラルまで、ほぼ全ての政治勢力に支持されている。石破政権も例外ではなく、2029年までに全国加重平均で時給1500円を目指す方針を示している。
現在の全国加重平均は1055円であり、目標を達成するには年率で約7.2%の引き上げが必要である。こうした急ピッチな引き上げについて、政権中枢は「日本の最低賃金は国際的に見てまだ低水準にある」として、雇用への悪影響は限定的とみているようだ。
こうした楽観的な見通しに対して、東京大学マーケットデザインセンターの研究者たちは警鐘を鳴らしている。彼らは、スポットジョブ紹介サイト「タイミー」から提供されたデータを用いて、最新の計量経済学的手法による推定を行った。
その結果、最低賃金が1%上昇すると、雇用が0.387%減少することが示された。分析対象が相対的に賃金水準の低いスポットジョブであることを考慮しても、雇用への影響は小さくない。年率7.2%の引き上げを続ければ、単純計算で雇用は毎年約2.79%ずつ減少することになる。
今後の中央最低賃金審議会では、この7.2%という引き上げ幅をどの程度抑制し、雇用への影響を最小限にとどめるかが焦点となる。また、地域ごとの経済状況を踏まえ、都市部の最低賃金を重点的に引き上げ、地方部の引き上げは緩やかにするめりはりのある調整も、雇用への悪影響を緩和するためには不可欠である。
最低賃金の引き上げが広範な支持を受ける背景には、近年の食料品価格の上昇によって、低所得層の生活が圧迫されているという現実がある。低所得層に対する直接的な支援として、給付付き税額控除の導入も検討すべきであろう。制度整備までの暫定措置として食料品への消費税を一時的に免除することも現実的な選択肢となる。党派を超えた政治家の協力と、それを政策面から支える行政官の知見と努力に期待したい。
(東京大学公共政策大学院 教授 川口大司)