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岸博幸のクリエイティブ国富論

経済産業省のコンテンツ行政に潜む致命的問題点

岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]
【第38回】 2009年5月1日
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 出版業界向けの新聞に、経産省のメディアコンテンツ課長のインタビューが掲載されていました。そこでの発言内容からは、経産省がマスメディアやコンテンツ産業の現状をいかに誤って理解しているかが明らかになりますので、今回はこの点について整理してみたいと思います。行政がこの程度の理解で政策を作っているとしたら、本来は成長産業となれるはずの日本のクリエイティブ産業の将来は暗いと言わざるを得ません。

異常なまでの議論の単純化

 マスメディアやコンテンツのバリューチェーンは、ざっくり言って制作(制作会社)と流通(テレビ、ネットなど)の二つに分けられます。そこでは、流通側による制作側の支配(下請け的構造)という伝統的な力関係があるのですが、インターネットの普及以降、ネット上を流通するコンテンツが少ないという新しい問題点も提起されています。こうした現状について、その課長はインタビューで以下のような概要の発言をしています。

(1) 流通側が勝手に過剰投資してチャンネルを増やして、コンテンツの不足を嘆いている。コンテンツが足りないから流通を促進しろというが、流通で過剰投資が起きているだけ。本来ならコンテンツ制作の側に投資すべき。

(2) 一方、コンテンツ制作側は、媒体やメディアに頼ってばかりいて、資金調達でも販促活動でも何の努力もせずに流通側に権利を取られると文句を言っている。そこに、経済危機による広告の落ち込みが拍車をかけている。

(3) 制作でなく流通への過剰投資を生み出しているアンバランスな関係にこそ問題がある。

(4) 従来型メディアはインターネットなどの新しいメディアを“従来のルールを壊すアンフェアなもの”と攻撃し、新しいメディアは、従来型のメディアは古いやり方にしがみついていると嘆く。こんな非生産的な構図はない。

 これらの個々の発言が正しいのは事実ですが、残念ながら全体としては非常に間違った理解となっていると言わざるを得ません。現実にはマスメディアやコンテンツ産業は様々な問題に直面しているにも関わらず、それらを一切捨象して、“制作より流通への過剰投資”、“既得権益にしがみつくマスメディア”と問題を単純化してしまっているからです。

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岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]

1986年通商産業省(現経済産業省)入省。1992年コロンビア大学ビジネススクールでMBAを取得後、通産省に復職。内閣官房IT担当室などを経て竹中平蔵大臣の秘書官に就任。不良債権処理、郵政民営化、通信・放送改革など構造改革の立案・実行に関わる。2004年から慶応大学助教授を兼任。2006年、経産省退職。2007年から現職。現在はエイベックス・マーケティング株式会社取締役、エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社顧問も務める。

 


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メディアや文化などソフトパワーを総称する「クリエイティブ産業」なる新概念が注目を集めている。その正しい捉え方と実践法を経済政策の論客が説く。

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