そんな時代を目前にして、私はこの状況が日本の人々の価値観や意識を変える好機だと感じています。それはすでに若年層の中で生じつつある価値観であり、今の親世代以上の主流となっている価値観とは明らかに異なる考えかたです。

 日本には、他人と同じような生活をすることで安心する人が多いと言われています。日本の一般的な家庭の子どもたちは、若い多感な時代に受験一辺倒の価値観を押し付けられ、将来の安定のために良い会社に入ることが大切だと教え込まれます。

 その後は、ある程度の収入を維持して他人の評価を気にしながら周囲と同じような人生を歩む――それが親にとっても安心であり、本人もそれが幸せだという価値観を植え付けられます。

 一方で、そのような生活を手に入れたものの、会社に長時間労働を強いられ、居心地が悪い家庭よりも外に居場所を求めるという人も少なくないでしょう。

 しかしよく考えてみると、一世代前から比較すれば日本は驚くほど豊かな国になっています。豊かになりモノがあふれるようになった結果、この20年くらいの間に確実に格差が広がりました。その中で比較的低収入の若者や家庭の存在が目立つようになり、景気低迷と就職難に結びつけた“不幸な若者”という社会一般の認識ができあがりました。

 しかし、このイメージとは裏腹に、こういった若年層は、意外と今の中上流家庭より毎日の生活に幸福感を感じている人も少なくありません。日本の中で低収入とはいっても、心身さえ健康であれば十分に生活を楽しむことはできます。他人と同じ水準かそれ以上の収入、持家、大量消費などで幸福感を感じるのではなく、家族との時間を大切にし、仕事や趣味を楽しむ若者たちもいます。

 低収入や非正規雇用のために生活が安定せず非婚化・少子化が進むと嘆く声がある一方で、こういった人たちは新しい価値観のもとに、横並びに消費で欲望を満たすのではなく、自分たちなりの幸せとは何かを考え、個々人がそれぞれの生き方を選択しつつあります。ある意味、自立した考えを持つようになったといえるのではないでしょうか。