「調査をした結果、私が出した見積金額の10倍ものお金を払っておられました。私がリフォーム業者に工事内容にかかる金額への疑問を指摘すると、業者は調査結果を認め、払ったお金の70%を返して来ました」(市成さん)

 この話は、2005年8月27日付の神戸新聞・明石版朝刊の記事になりました。

 市成さんはリフォームトラブルの解決と予防いう実績で、知名度アップを勝ち取ったのです。

欠陥住宅騒ぎの1年前から培った実績が花開く

 その年の2ヵ月半後に、市成さんの活動を後押しする大きな風が吹きました。

 2005年11月17日に国土交通省が、千葉県にあった建築設計事務所の元一級建築士による地震などに対する安全性を確認する構造計算書の偽造があったことを公表したのです。これは構造計算書偽造問題とか耐震偽装問題と呼ばれて後々まで大きな波紋を呼ぶことになりました。偽造された構造計算書に基づいて建設されたマンションは耐震不適格と判断され、何も知らずに購入した入居者たちを苦しめる欠陥住宅問題が大きくクローズアップされたのです。この騒ぎが起こる1年も前から欠陥住宅撲滅問題に取り組んできた市成さんは、正義感あふれる建築士として一躍その真価を認められることになりました。

 市成さんは自分の強みを、住宅問題で迷っている人、悩んでいる人、困っている人を助ける「住宅業界のアンパンマン」であると明確に絞り込み、その認知度も高まりました。

 けれども、市成さんにはもう1つ大きな課題が残っていました。競争力です。構造計算書偽造問題以後、市成さんと同様のサービスを掲げる建築士事務所や調査会社も増えました。そんな競争の中で消費者に、市成さんを選んでもらうにはどうしたらよいのでしょうか。

 その時、市成さんが思いついたのはサラリーマン時代のことでした。建築社員である市成さんは、営業社員と二人三脚で動きます。たとえば新築住宅の契約を取るために、建築社員は顧客の希望とか条件を聞いて設計図を引きます。ところが市成さんはいつもその設計図が遅いといわれ、ダメ社員のレッテルを貼られていました。なぜ遅いかといえば、他の建築社員が顧客の話を2~3回聞いたうえで図面を引き始めるのに対して、市成さんは建設予定地へ何度も出向きじっくり土地を観察し、それから設計を開始するのです。このためお客様に設計図を提出するまでに時間がかかったわけです。

 今では独立した建築士事務所ですから、市成さんに時間制限はありません。そこで改めてお客様と何度も会って時間をかけてじっくり話を聴き、対話をしながら「イメージ設計」をすることにしました。そのやり方は、たとえばこんな風になります。