金融界のセールストークのネタは
「老後不安頼り」に

 振り返ってみて、投資を勧めたこと自体は結果的に悪くなかったのだが、今や「インフレ」は顧客の心に響かなくなった。

 そして金融業界は、専ら「老後不安」に頼っている。「資産を運用して、資産寿命を延ばさないと大変ですよ」と脅すパターンが全盛だ。加えて、おととしに政府の対応のまずさから勃発した「老後2000万円問題」のアシストで、金融ビジネスの老後不安マーケティングは大きく花開いた。

 そんな中で、今般久しぶりに「インフレ」がマーケットの材料として関心を集めた。ところがそれは、「投資しなければインフレに勝てない」という投資を推す材料としてではなく、株価の下落につながり、投資に冷や水をかけるものとしてだった。

 5月12日に発表された米国の4月の消費者物価指数(CPI)が大方の予想(3.6%程度と報じられていた)を上回る対前年同月比4.2%もの大幅上昇となって、内外の株価の下落につながった。

 本格的なインフレは来ないだろうという見方が現時点では多勢であろうとしても、目下の情勢では、完全に無視できるリスクでもなさそうだ。そして、本格的なインフレにならずとも、今後インフレが市場の材料として登場することが少なからずありそうだ。

 そこで、インフレと株価、および株式投資との関係を整理しておきたい。

インフレは株価水準に中立である理由を
株式の理論価格のモデルで説明

 インフレと株価、株式投資の関係は、直感的な推論になじまない面があって、過去には有名な経済学者でもおかしなことを言った例がある。

 例えば「企業は実物資産を持っているので、インフレになると資産が値上がりするから、インフレになると思うなら株を買っておくといい」といった意見は、直感的にもっともらしく思う人がいるかもしれないが正しくない。