だが、ホンダ本社関係者によると、新型ヴェゼルが正式発表され車両が販売店に届き、多くの人が実車を目の当たりにすると、「ホンダらしいデザインに対する好意的な意見が増えていった」という。
今回の試乗車は試乗当日に抽選で決まり、筆者は前輪駆動車の最上級グレード「e:HEV PLaY 」に乗った。e:HEVは、発電用と走行用の2つのモーターを持つホンダ独自のハイブリッドシステムである。
運転席に座ると、ウエストラインが高く、カラダ全体が車内にすっぽりと収まるような感じだ。実際のボディ寸法は全長4330mm×全幅1790mm×全高1590mmだが、ひと回り大きなクルマに乗っているようにも思う。天井には、ホンダが「Low-E」と呼ぶ特殊なガラスが採用されており、パノラマルーフによる開放感がある。
試乗ルートは、高速道路、市街地、そして郊外路を約1時間半走った。
ホンダが想定した「体感ポイント」は、ハンドリング、乗り心地、またエコ・ノーマル・スポーツに設定できるドライブモード等あるが、やはりホンダが重要視しているのはe:HEVだ。
高速道路では、e:HEVの特徴であるモーター駆動(低速から中速)からエンジンによる走行(高速)へのシームレスな切り替えを感じ取ってほしい、というのがホンダから試乗するドライバーへの提案だった。同様に、市街地では電動感、そして郊外路ではレスポンスと力強さがアピールしたい魅力ということだった。
見方を変えると、こうしたさまざまな走行場面でe:HEVの特長を一般ユーザーもしっかり感じ取ることができるようなセッティングが施してあるということだ。実際、筆者もホンダの思惑通りの感想を持った。
トヨタや日産のハイブリッドに対する
優位性をホンダがプレゼン
試乗前のプレゼンでは、e:HEVを他社のハイブリッドシステムと比較した説明があった。
まずは、「シリーズ・パラレル方式」との比較だ。ホンダは具体名を出さなかったが、この方式はトヨタのハイブリッドシステム「THSⅡ」を想定している。
シリーズハイブリッドは複雑な動力分割機構により、エンジンによる走行とモーターによる走行を状況に応じて切り替える。エンジンが主役で、モーターは補佐役だ。
一方、e:HEVはシンプルな構造で、(高速走行ではない)日常的なドライブではモーターによって走行する。
次に、シリーズ方式(代表的なのは日産のハイブリッドシステム「e-POWER」)との比較だ。この方式は、エンジンは発電専用として使いながらシームレスな駆動用モーターで走行するシンプルなシステムだが、高負荷での運転では多くの電力をモーターに供給する必要があり、特に高速走行ではエンジンを高回転で回す必要があるため燃費に影響する。
一方、e:HEVはエンジン直結クラッチを装備しているので、中高速クルーズ時ではエンジンの最も効率が良い領域であることを生かして低燃費で走行できる。
ホンダ開発者は「e:HEVは、シリーズ・パラレル方式とシリーズ方式の『いいとこ取り』だ」と表現する。
こうした詳しい説明を受けてからe:HEVを走らせると、確かに「ホンダらしさ」を感じることができた。先に発売された「フィット」のe:HEVに比べて、制御がより緻密になったように感じた。
だが、ハイブリッドシステムの差を十分に理解した上で新型ヴェゼルを購入する一般ユーザーがどれほどいるのか。一般ユーザーの多くは、トヨタ、日産、ホンダのハイブリッドシステムの技術的な中身にはさほど興味はなく、ひとくくりで「ハイブリッド車(HV)」と認識している場合が多いのではないだろうか。その上で、HVとプラグインハイブリッド車(PHEV)、そして電気自動車(EV)という電動車の大まかな違いを理解しているのだと思う。
ホンダらしさ=ユニークさ
次世代のホンダらしさとは何か?
さて、話は少し変わるが、試乗会場でホンダ本社やホンダ関連企業の関係者数人に「ホンダらしさ、とは何だと思うか?」と聞いてみた。
すると、やはりここでも「ユニークさ」という声が多く出た。筆者は過去数十年間にわたり、ホンダのさまざまな部署と関わってきたが「ホンダらしさ=ユニークさ」という解釈をする人は多い。
新型ヴェゼルにおけるホンダらしさは、e:HEVを筆頭に、車載通信モジュール「ホンダコネクト」での新サービスなどさまざまあり、こだわりを持って突き詰めた量産開発をする姿勢は、実にホンダらしい。
ただし、前述のようにユーザーにとっては“ハイブリッド車ひとくくり”という一般的な見方が増えつつある中で、ホンダとしての商品の差別化を図るハードルも上がっている印象がある。
昨今、電動化に限らず、いわゆるCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング&サービス、電動化の4つの技術トレンド)全体において今後、自動車メーカー間や業界を超えた協調領域がますます増えていくことは確かであり、その中でホンダらしさを見いだすことの難しさも増す。
ユニークさを信条とするホンダにとって、大きな試練である。
だからこそ、経営陣はホンダ改革の旗を振った。
本田技研工業(本社)と技術開発を行う本田技術研究所が別組織であることがホンダのユニークさの原点だったが、同社はこれを見直した。2輪では19年4月から本田技術研究所の二輪R&Dセンターと本社二輪事業を統合して、本社二輪事業本部ものづくりセンターに一元化。4輪では20年4月から本田技術研究所の四輪車商品開発機能を四輪事業本部と統合した。
その上で、ホンダらしさの象徴といえるF1から21年シーズンで事実上の完全撤退し、人材と予算などを電動化の研究開発に振り向けることを決断した。
そして、新型ヴェゼル発売日でもある21年4月23日、三部敏宏氏のホンダ社長就任記者会見では「先進国全体でのEV、FCV(燃料電池車)の販売比率を30年に40%、35年に80%、40年にはグローバルで100%」という、高みを目指すための目標を掲げた。
三部社長は「ホンダは難しい課題に直面すると、ホンダ本来の強みが発揮される(社風がある)」と表現する。
ホンダにいま必要なことは、「ホンダらしさ」の未来像をより明確に描くことではないだろうか。
新型ヴェゼルは、これからホンダが歩むであろう、いばらの道の象徴といえるかもしれない。